「キーパーソン」



彼は世界の“扉”を開く、キーパーソンを自負していた。
世界中の人たちも皆、それを認め、崇め讃えて、彼はそれ
を誇りに思っていた。

そして時は満ち、いよいよ世界の“扉”を開ける瞬間がや
って来た。

彼の頭が“扉”の鍵穴に差し込まれ、体を一回転捻られる
と、ガシャッと鍵が開く大きな音が響いて、“扉”は見事
に開け放たれた。

人々は歓喜し、われ先にと“扉”に群がり、押し合いへし
合い“扉”の向こうへ通り抜けていく。
その様子を間近に見るうちに、彼はようやく重大な事に気
がついた。

(しまった! まんまと利用された!)

最後の一人が通り抜け、誰もいなくなった“扉”の鍵穴に、
相変わらず頭を突っ込んだまま、彼は身動き取れずにいた。

恐らく永遠に一人だけ、“扉”の向こうへ行く事は出来な
いだろう。






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