「荷役」



老人は日雇いの荷役をしていた。
それは老人にとって、過酷な労働だった。
その様子は傍から見ていても、胸が締め付けられるほどの痛々しさ
だった。

憐れに思った雇い主は、自分の損得を度外視して、知人が館長を務
めている養護施設を老人に世話してやった。
おかげで老人は荷役から解放され、平穏な生活を送れるようになっ
た。

ところが、その施設に入居してわずか数週間後、老人は体を壊して
死んでしまった。

実は老人は、荷役の仕事を心から愛し、それを生きがいにしていた
のだ。
でも元来気が小さく、人に優しい性格だったので、その事を言い出
せず、せっかく自分のために骨を折ってくれた人の厚意を無下にす
る訳にもいかずに、泣く泣く言いなりになっていたのだ。

老人の死後、元の雇い主と施設の館長によって、ささやかな葬儀が
執り行われた。

「気の毒な爺さんだったが、最後のほんのわずかな間だけでも、心
安らかに暮らせたのだから、それがせめてもの救いになった事だろ
う‥‥。」

自分たちの行いの正しさを信じて疑わずに、二人はそう言ってお互
いを慰め合った。

                          (2013.6)






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