「シンデレラ」
男は、行き合わせの女を買った。
まだ、あどけなさの残る、少女のような女だった。
二人は歓楽街を抜け、街外れの小さなホテルに入った。
もう、夜も更けていた。
男は先にシャワーを浴びると、ベッドに寝転んで、女の出
てくるのを待った。
程なくして、女が浴室から出てきて、男の横に座った。
そして部屋の時計を見て、男にこう言った。
「あと3分、待って。」
時計の針は、11時57分を指していた。
「12時になったら、魔法が解けるのかい?」
「ふふ‥‥そうよ。」
そう言って女は微笑んだ。どこか醒めた、冷たい目をして
いた。
3分後、二人はベッドに潜り込み、情事を済ませた。
女の肩を抱いてベッドに寝そべりながら、男はさっきの女
の言葉を思い出していた。
「教えてくれないか?なぜ12時まで待ってたんだい?」
すると女はまた、ふふ、と笑いながら話し始めた。
「12時を過ぎて、私は二十歳になったわ。今日が私の誕生
日なの。それまでの私は、未成年だったって訳よ。」
「なるほど。あの3分で僕らの罪も、少しは軽くなったと
いう事か。」
ほんの一日、ほんの一秒の違いで、罪の重さや有無が大き
く変わってしまう。この世の中は、不思議な所だ。
そんなことを思いながら、男は何の感慨もなく、女に微笑
み返した。
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