「善行」



連日流される震災のニュースに、男は心を傷めていた。
あの困っている人たちの為に、何かしてあげたい‥‥
その思いは止まることなく、日に日に大きく膨らんで
いった。

そしてある日、男はいてもたってもいられなくなって、
会社に休暇願いを出して、東北へと向かった。

一週間後、力仕事でくたくたになって帰ってくると、
男の家のまわりには人だかりができていて、救急車と
パトカーが止まっていた。

彼の隣の家に住む、一人暮らしの老人が、餓死して
見つかったという。

男はその隣人の、
名前も顔も知らなかった。






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