「十四歳」



その少年はある日突然、マンションの屋上の手すりを乗り越えて飛
び降りた。十月の、よく晴れた朝の事だった。

少年は、学校の同級生数人から、日常的にいじめを受けていた。
机やカバンに落書きされたり、弁当に砂を入れられたり、金を脅し
取られたり、万引きを強要されたり‥‥

しかし、その年の春ごろまではそうではなかった。少年と彼らとは、
仲のいい友だちであった。それが半年後には、この様なおぞましい
関係に変わってしまっていたのだ。
一体何が、そうさせたのか?

ほんの些細な事だが、少年には他の子たちと違う、一風変わったと
ころがあった。
彼は中学生になってもまだ、小学生の頃から使っている古いランド
セルを背負って、学校へ通っていたのである。

だが、彼の友だちもはじめのうちは、そんな事は気にも止めていな
かった。それを最初に気にし出して、問題視し始めたのは、彼らの
親たちだった。

(あの歳になってもまだ、あんな格好で学校に通うなんて、ちょっ
と普通じゃない‥‥)

親たちはそう決めつけて、自分の子どもが少年と仲良くするのを嫌
がる様になった。
すると子どもたちも、親の心理を敏感に察して、だんだんそれに感
化されていった。

一緒に遊ぶのをやめ、少年を避ける様になり、話しかけて来ても無
視をした。それまで少しも気にならなかったランドセルも、酷くお
かしな格好に見え始め、それを種に馬鹿にし出した。
彼らのいじめは、坂道を転げ落ちる様に、急激に加速していった。

そうしてある日、少年は飛び降りたのだ。

結局、少年の自殺といじめとの因果関係は立証されず、少年の友だ
ちは軽い謹慎処分を受けたきりで、この事件は立ち消えとなった。


僕は思う。
死んだ少年は、確かに不幸な犠牲者だが、少年を死に追いやった十
字架を、自分でも知らぬ間に背負わされてしまった彼の友だちも、
同じ様に不幸なのではないか?
彼らにそんな十字架を背負わせたのは、一体誰なのか?

十数年後、彼らはそれぞれ結婚し、やがて父親になった。
彼らの子どもたちは今、少年が飛び降りた時と同じ、十四歳だ。






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