「新しい神」



宇宙を司る神の役職が、若い新しい神に継承された。国や企業のト
ップ同様、神の役職も代々受け継がれているのだ。

若い新しい神は、意欲に満ちていた。
「今のこの世界の、なんと乱れていることか‥‥人間たちの悪行が
横行し、目も当てられない有り様だ。それというのも、今までの神
たちが何も手を打たず、指をくわえてただ見ているだけだったから
だ。これでは職務怠慢と言われても仕方がない。だが、私は違う。
先達の神たちよ、見ているがいい。私の力でこの乱れた世界をただ
してみせるぞ。」

新しい神は、人間が犯したありとあらゆる罪を、些細なものまで逐
一見逃さず、それ相応の天罰を下した。気の遠くなる様な仕事だっ
たが、強い使命感と、若さゆえの揺るぎない自信と情熱が力となっ
て、神は休む間もなく働き続けた。

すると、成果はすぐにあらわれた。
一年と経たぬ間に、罪を犯す者は目に見えて減り始め、二年もする
と、見違えるほど平和な世界になった。若い神は、自分の力に酔い
しれ、悦に浸っていた。

だがしばらくすると、どうも様子がおかしいことに気づいた。
人間たちは笑わなくなった。皆、怯えた目をして、他人と関わるの
を避ける様になった。確かにそこは、誰も罪を犯さない、平和な世
界かもしれない。だがそれは、決して幸福ではない平和、不自由な
平和に見えた。

「なるほど、そういうことか‥‥今になってようやく解った。どう
してかつての神々が、何もしようとしなかったのか‥‥」
若い新しい神は肩を落とし、深いため息をついた。
そして、天罰を下すのをやめた。

世界は徐々に、元の世界に戻っていった。






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