「巨大な拡声器」



些細な呟きを世界中に響き渡らせる、巨大な拡声器が発明
され、世界中の人々がそれを手に入れた。

ほんの小さな不平不満は、怒号になって発せられた。
くすりと笑えば、それは大爆笑に、半べそをかけば、それ
は号泣に変えられた。

ささやかな美談は奇跡の感動秘話に、根も葉もない噂は一
大スキャンダルに、他愛ない揉め事は歴史的大事件に、い
い事も悪い事も、あらゆる声が拡声器によって巨大化され
た。

やがて世界は、鳴り止まぬ拡声器の轟音に支配され、堪ら
ず人々は、地下の防音シェルターへと逃げ込んだ。

それでもなお人々は、地上に向けて声を発するのを止めよ
うとはしなかった。
きっと誰かがこの声を、聞いてくれるに違いないと信じて。

人影の消えた地上には、今日も轟音が鳴り響いている。
誰の耳にも届く事のない、地の底から湧き上がる声が。






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