第一章 にせものT

(1)


(天国の画像と地獄の画像を合成すると、多分こんな景色
になるんだろう。)

窓の外に広がる、夜の都会の街並みを見下ろしながら、尾
津はそんな事を考えていた。彼は今、高層ビルの中にある
ホテルの一室の窓際に立っていた。
そのまましばらくぼんやりと夜景を眺めた後、おもむろに
彼は、その景色に重なり合ってガラスに映る自分の姿へと、
目の焦点を移していった。
年齢より幾らか若くは見えるが、気力のない疲れ切った表
情の、痩せこけた冴えない四十男が、そこに立っていた。

その後ろから、若い女の姿が近づいて来るのが見える。そ
れは先程、情事を済ませたばかりのコールガールだった。
女は尾津の横に寄り添い、並んで街の景色を眺めた。

「きれい‥‥まるで空の上から見ているみたい。」
女は小さな声でそう呟いた。

彼女とベッドを共にしたのは、これが二度目だった。
それまでも尾津は、何度もコールガールを抱いていたが、
同じ相手を二度抱いたのは、彼女が初めてだった。
何故だか判らないが、彼はもう一度、彼女に会いたいと思
ったのだ。

肩まで伸びた黒い髪、ややほっそりとした体に白い肌、そ
れにいつも優しげに微笑んでいる様な、それでいて何処と
なく愁いを帯びた顔立ち、悲しげな瞳、決して特別美しい
という訳でもないその姿が、何故か尾津の心を妙に引きつ
けた。
二人は黙ってそのまましばらく、肩を並べて外の景色を眺
めていた。

(一体いつから俺は、こんな事を続けて来たのだろう? 
いつまで続けるつもりなんだろう?)
尾津の頭に、ふとそんな考えがよぎった。






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