(5)


納骨が終わると、参列者は丘の上の広場に移って、手持ち
無沙汰の様子で立ち話をしていた。この後会食する場所に
移動するためのバスの到着が遅れているのだった。辺りは
もう、薄暗くなり始めていた。

ふと夏子は、新鮮な空気が吸いたくなって、骨上げを待っ
ている間に町を眺めていた場所へと向かった。
目指す場所が見えて来た時、夏子はどきっとして足を止め
た。暗がりの中に誰かが立っていたのだ。一瞬、夏子は自
分が立っているのかと錯覚した。

それは雪枝だった。

十数年振りに見る母の背中は、心なしか小さく、丸くなっ
た気がした。様々な思いが入り乱れ、胸を締めつけた。

夏子は、ゆっくりと雪枝に近づいて行った。そして間近ま
で来た時、雪枝が気づいて振り返った。夏子は黙って会釈
した。すると雪枝は、少し驚いた表情になったが、すぐに
真顔に戻ってまた背中を向けた。夏子は雪枝の隣に歩み進
んだ。
それからしばらくの間、二人は並んで丘の下の町を眺めて
いた。

「あたしより先に死ぬなんて‥‥」
雪枝が独り言のようにぽつりと呟いた。
「でも、最期は苦しまずに逝ったみたいで‥‥」
夏子が答えた。眼下に広がる町が、少しずつ夜のしじまに
青く覆われ始めていた。昔と変わらぬ景色、辛い思い出ば
かりの筈の景色が、今は不思議な程柔らかい懐かしさに包
まれて、夏子の目に映っていた。

「母さんは長生きしてよ。姉さんの分まで。」
「あんたもね。」

二人は同時に顔を見合わせ、どちらからともなく笑顔を見
せ合った。こんな風に笑い合うのはいつ以来だろうと夏子
は思った。

                       (終)






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