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これは僕がまだ十七歳、高校二年生の頃の話である。

その年、東北地方を未曾有の巨大地震と津波が襲い、多くの犠牲者
を生んだ。残された人々もそれまでの生活を根こそぎ奪われ、散り
散りに避難を強いられ、苦しい思いをしていた。
そんな不幸な人々に向け、日本じゅうから、世界じゅうから、復旧
復興を支援する動きが起こり、義援金や食料や物資、それにボラン
ティアの人々が、次々と被災地へ集結していった。
あたかも日本は、この大災害から立ち直るために団結し、心をひと
つにしたかの様だった。

被災地から遠く離れた、僕の通っていた高校でもその例に漏れず、
全校挙げて、あるいはクラス単位で、義援金や日用品を募ったり、
休日を利用して被災地支援のボランティアに参加したり、様々な活
動が為されていた。

正直に言うと僕は、こうした活動に、あまり積極的な気持ちにはな
れなかった。
確かに被災地の人々は不幸だと思ったし、深い同情の念を持っては
いたのだが、元来冷めた性格の僕は、こうして皆が皆、同じ方を見、
同じ事を言い、同じ行動をとる事に、何となく違和感があったのだ。
そうは言っても、僕一人だけが自分のわがままで勝手な真似をして、
他のみんなの気持ちを損ね、その和を乱す様な馬鹿な事はしたくな
かったので、そうした違和感は胸にしまい込み、流れに逆らわず大
勢に従い、周りに調子を合わせながら、義援金や物資を提供してい
た。

この様な状況の中で、僕のクラスには一人だけ、他の者と行動を異
にする人物がいた。それは、Sという名の男子生徒だった。
Sは同級生たちの、被災地支援の呼び掛けには一切応じず、義援金
や物資などを一度も提供した事がなく、ボランティア活動に参加す
る気など、まるでない様子だった。
彼は頑なにそうしたものを拒否し、周りを無視し続けて、震災前と
変わらぬ自分の生活に徹していた。
そのため、彼は徐々にクラスの中で孤立し、疎外され、皆から嫌悪
の目で見られる様になっていった。誰もが彼を無視し、彼のいない
所では、彼の陰口が叩かれた。

実は震災以前からも、Sはクラスの中では一人浮いた存在であった。
資産家の一人息子だった彼は、小さい頃からおとなしい、目立たぬ
性格で、その家柄のせいもあってか、周りのクラスメイトと打ち解
けず、親しい友達が一人もいなかった様である。
また彼には、裕福な家柄であるために、幼少時代に身代金目的で誘
拐され、危うく殺されかけた事があるという、嘘か本当か判らぬ、
いかがわしい怪しげな噂もあった。

そうした事が一層、彼が他の者から距離を置かれる原因となってい
た様だ。






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