掃除夫フィンゴが見た夢


(1)


灰色猫のフィンゴ・セント・ファンホーは、町の掃除夫で
す。
幼い頃に両親を亡くした彼は孤児院で育ち、孤児院を出て
からは、学校へ行くお金がなかったので、すぐに働き始め
ました。学歴もなく、体も小さくて弱かったフィンゴは、
どの仕事に就いてもなかなか長続きせずにいましたが、自
分が住む小さな町の掃除をする仕事を見つけるとようやく
落ち着いて、それから何十年も掃除夫を続けていました。
今やフィンゴは、よれよれの老人猫になっていました。

朝から晩まで休みなく町の掃除をしていると、たくさんの
猫たちが通りを行き交って、中にはゴミを道に落としてい
く者もいます。
せっかくきれいに掃除をしても、そのすぐそばから町は汚
れていきます。今日の夜までにきれいにしても、明日の朝
にはもう、元の汚れた町に戻ってしまいます。そうしてフ
ィンゴはまた、同じことを繰り返すのです。毎朝、新しく
汚された町を見るたびに、フィンゴは悲しくなってため息
をつくのでした。

ある時、町を歩いていた若いオス猫が、フィンゴの目の前
で道にゴミを捨てました。フィンゴは我慢できなくなって、
その若いオス猫に声をかけました。
「もしもし、そこのあなた。道にゴミを捨てちゃあいけま
せんよ。町を歩く他の猫たちが、ゴミが落ちていたらいや
な思いをするでしょう?ゴミはゴミ箱に捨てて、みんなで
町をきれいにしましょうね。」
するとそのオス猫は、半分笑いながらこう言いました。
「君、おかしなことを言うじゃないか。君の仕事は何だい
?町の掃除をすることだろう?ゴミが落ちてなければ掃除
はできないよ。つまり、僕なんかがゴミを落とすから、君
は仕事にありつけてるんじゃないか。言ってみりゃあ僕が
君を養ってるようなものだよ。感謝こそされても、注意を
される筋合いはないよ。」
フィンゴは言葉につまってしまいました。ずいぶん都合の
いい理屈のようにも聞こえますが、言われてみればなるほ
ど、確かにその通りのような気もします。頭もそれほどよ
くはなく、体もそれほど丈夫でない自分に務まる仕事は他
にない。ゴミを落とす者がいなかったら、自分は生きてい
けない。悲しいけれど、彼の言い分は間違っていないと思
うのでした。

それ以来、フィンゴは道でゴミを捨てる猫を見かけても、
声をかけられなくなってしまいました。






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