ギャンゴー探険隊の冒険


(1)


「ギャンゴー、もうそろそろ君の例の病気が始まる頃じゃ
ないのかい?」

ドライ・マティーニに浮かんでいたオリーブの実を摘まん
でかじりながら、虎柄のオス猫が悪戯っぽく笑いながらそ
う言うと、隣に座っていた茶毛のオス猫はグラスのウイス
キーを飲み干して肩をすくめました。

「病気とはご挨拶だな。でも確かに君の言う通り、うずう
ずしてきたところだ。」

このギャンゴーと呼ばれた茶猫が、このお話の主人公です。
数々の冒険や探険で、ネコオルランドでは彼の名を知らな
い者は誰ひとりいない、とても有名な探険家なのです。
ここはネコオルランドのとある小さな町の小さなバーです。
ここでは夜な夜な様々な仕事を持った猫たちが集い、お酒
と楽しい会話で、一日の疲れを癒していました。
薄明かりの照明の中に静かなジャズの音楽が流れる、落ち
着いた雰囲気のカウンターに、その夜は四人のオス猫が座
っていました。四人はそれぞれ皆、このお店で初めて顔を
合わせ、親しくなった間柄でした。

「この前、君が探険をしたのはいつだったかな?」
一番右端に座っている、先ほどの虎猫がまたギャンゴーに
訊ねました。彼の名前はルアーノ。ツォルカーナ宇宙科学
研究所に勤める天文学者です。
(このルアーノは、「レトロック博士の生涯」という別の
お話にも登場しますので、よろしかったらそちらのお話も
ぜひ読んでみて下さい。)

「半年前さ。オーバードの森を探険して、ドラゴンの羽根
を採って来たんだ。君にも見せたろう?」
「ああ、そうだった。金色にきらきら輝いてきれいだった
な。その前は確か‥‥ターヌアー村を荒らすオオネズミを
退治しに行ったんだよな?」
「そうそう、あれには驚いたよ!なにせ背の高さが5メー
トルもあるオオネズミだったからね。」
探険家らしい筋骨隆々のたくましい体をしたギャンゴーは、
そう言って笑いながら、二杯目のウイスキーに口をつけま
した。

「また冒険の旅がしたくてうずうずしてるんだけど‥‥今
までさんざんいろんなことをしてきたお陰で、今じゃあも
う行きたいところややりたいことが思いつかないんだ。何
かわくわくするような、面白いことはないかなあ‥‥」
「それなら一つ、いい情報があるよ。」

ルアーノとは反対側、つまりギャンゴーの左隣で、モヒー
トのグラスに鼻を近づけて、ミントの葉の香りを嗅いでい
た白猫が、ふたりの会話に入って来ました。
ギャンゴーは、白猫の方に向き直って訊ねました。
「何だいサーストン、いい情報って?」

白猫の名前はサーストン。彼は仕事をしていない自由猫
(自由人)ですが、ネコオルランドでも五本の指に入るぐ
らいの物知りでした。というのも、彼のおじいさんが偉い
学者で、彼の家にはたくさんの難しい本があって、それを
小さい頃からいつも読んでいたからです。

サーストンは、グラスをテーブルに置いて話し始めました。
「君はゴーフのことを知っているかい?」
「ゴーフ?幻の巨大魚って言われてる、あのゴーフかい?」
「海の守り神とも、悪魔の魚とも言われてるやつか。でも、
本当にいるのかい?」
ギャンゴーに続いてルアーノが、疑わしげに聞きました。

「うん。最近ネコオルランドの近海で、正体不明の巨大な
魚に漁船が襲われて、沈没する事件が多発してるんだけど、
それがゴーフじゃないかって噂されているんだ。」

サーストンの話にギャンゴーとルアーノは興味しんしんで、
身を乗り出し、耳をぴんと立てて聞いていました。






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