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「救助された乗組員の話だと、船を襲ったのは今までに見
たことのない魚で、体長が十メートルぐらいあったそうだ。
体全体が、七色にきらきら光る鱗で覆われていて、とても
きれいだったっていうことだよ。」

サーストンの話を聞いていたギャンゴーは、不意に困った
みたいな顔をしました。
「確かに興味深い話だけど‥‥僕は海のことはあまりよく
分からないんだ。ゴーフを探すっていっても、何をどうし
たらいいのか‥‥」
「そのへんのことは僕より、ロポックの方が詳しいんじゃ
ないかな?」
サーストンはそう言って、一番左端でカルーア・ミルクを
飲んでいる灰色の猫を見ました。

「その事件のことなら、僕も知っているよ。調査したいと
思っていたところなんだ。」
灰色猫のロポックが、初めて口を開きました。

ロポックは海洋学者です。彼は若い頃に、旅行中に乗って
いた大型客船の沈没事故に遭って、それでも危ないところ
を何とか助かったのですが、一緒に乗っていた友だちが事
故の犠牲になって、命を落としてしまいました。その悲し
い経験から、海の安全に関わる仕事をしたいと思うように
なり、海洋学者になったのです。
(その船の事故に関しては、「大型客船ゴーストロモ号の
沈没」という別のお話に詳しく書いてありますので、よろ
しかったらそちらもぜひ読んでみて下さい。)

「漁船が襲われた場所を辿っていけば、ある程度の活動範
囲は分かるはずだ。そのエリアを探していれば、ゴーフを
見つけられる可能性はあると思うよ。」
「だけど、ひとつ大きな問題がある。僕には船がない。」
「それなら僕の知り合いを紹介してあげるよ。海洋調査で
よく手伝ってもらっている、調査船の船長がいるんだ。と
ても頼りになる男だよ。」
「やあ、そいつはありがたい。ぜひ紹介してくれ、お願い
するよ。」

すると今度はルアーノが、話の中に割って入りました。
「僕もひとり、いいやつを知ってる。僕の弟さ。漁師をや
っててね、銛(もり)を使わせたら右に出る者はいないよ。
どんな大きな魚も一撃で仕留めてしまうんだ。」
「銛打ちの名手か。それは心強いな。ぜひお願いするよ。」
「あの‥‥私にもお手伝いさせてもらえないでしょうか?」

ここまでカウンターの奥で、黙ってグラスを拭いていたこ
のお店のマスターが、不意に口を開きました。マスターは
小柄で上品で、いかにも穏やかそうな雰囲気の三毛猫です。
「えっ、マスターが?」
「はい。私の友だちがこの近くで、魚料理の店をやってる
んです。彼は店で出す魚を自分で釣って来るのです。じつ
はあなたのファンでしてね、彼を紹介しますので、一緒に
連れて行ってはいかがでしょうか?とても腕のいい料理猫
(料理人)ですよ。本人もきっと大喜びするでしょう。」
「そいつはいいな。海の長旅は過酷だろうから、美味しい
ものを食べるのは何よりの楽しみになるだろうし、それで
きっと士気も上がるだろう。ありがとうマスター、ぜひお
願いするよ。」
みんなからいろいろ提案を受けて、ギャンゴーは嬉しくて
わくわくしてきました。

「なんだか話がとんとん拍子にまとまっていくじゃないか。
この分だと君の病気もすぐに癒されそうだな。」
サーストンが、ギャンゴーの肩をぽんとたたいて言いまし
た。
「いやまったく。ありがとう、みんなのお陰だよ。よし、
今夜は僕のおごりだ。好きなだけ飲んでくれ。」

ギャンゴーのこの計らいに、みんな手をたたいて大喜びで
す。するとルアーノがグラスを持って立ち上がりました。
「では諸君、ここはひとつ前祝いといこうじゃないか。
えーそれでは、ギャンゴー探険隊の新しい冒険の成功を願
って、乾杯!」
「乾杯!」

ギャンゴー、ルアーノ、サーストン、ロポック、それにマ
スターの五人は高らかに声をあげ、グラスを頭上に掲げま
した。






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