クリムの子どもたち


(1)


ネコオルランドの小さな町に、クリムという白と茶色のま
だら模様の青年猫がいました。クリムの暮らしは貧しく、
これといって得意なこともなかったので、学校へは行かず、
町にある一番安い給料の工場で働いていました。
体が小さくて力が弱く、のんびりした性格のクリムは、工
場の仕事をあまりてきぱきとできませんでした。ですから、
一緒に働いている猫たちは、少し彼のことを馬鹿にしてい
るようでした。それでみんな彼のことを陰で、「のろまの
クリム」とか、「役立たずのクリム」とか言っていました
が、クリムはそんなことは気にもかけずに、毎日一生懸命
働いていました。

ある朝、クリムが目を覚ますと、なんだか体がとてもだる
くて、おまけに頭も痛くて、なかなか起きることができま
せんでした。
「もしかして風邪でもひいたかな?困ったな‥‥」
町の病院は、診察代がとても高いので、一回診てもらうだ
けでお金がすっかりなくなってしまいます。クリムは迷い
ましたが、あんまり具合が悪いので、仕方なく仕事を休ん
で病院に行くことにしました。
家を出て病院に向かう道の途中、川の上にかかる橋に差し
かかった時のことです。橋の真ん中あたりの手すりにもた
れて、思いつめた顔をして川面を見下ろしているオス猫が
いました。クリムはその猫が、川に飛びこみでもしないだ
ろうかと心配になって声をかけました。
「もしもし、どうされたんですか?」
オス猫は、うつろな目でクリムの方を見ました。
「じつは‥‥家賃を払うお金がなくて、家を追い出された
のです。家がなければ仕事もやめなければなりません。新
しい仕事を探したくても、家がなければどこも雇ってくれ
ません。どうしたらいいものか、ほとほと困ってしまって、
ここにこうして立っているのです。」
そう言うとオス猫は、また手すりに寄りかかって川面を見
下ろしました。クリムはそのオス猫のことが、たいへん気
の毒でしかたなくなりました。それで、持っていたお金を
彼に差し出しました。
「さあ、このお金をあげるから、これで家賃を払って下さ
い。」
「えっ?でもそれじゃあ、あなたに悪いです。」
「なに、かまいません。困った時はお互い様ですよ。」
オス猫は驚いて、しばらく迷っていましたが、お金を受け
取ると、何度も何度も頭を下げました。
「ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
そうしてオス猫は、クリムの方を何度も何度も振り返って
頭を下げながら歩いていきました。クリムは、持っていた
お金をすっかり渡してしまったので、もう病院に行っても
診てもらえません。
「しかたがない、また働いてお金を貯めよう。」
クリムは、重い足を引きずるように、今来た道を帰ってい
きました。






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