レトロック博士の生涯


(1)


さてみなさん、これからお話しするのは、ネコオルランド
という、二本足で立って服を着て言葉を話す猫たちの国に
住む、レトロック博士という科学者の黒猫の物語です。

レトロックは、ネコオルランドの中心部にある、ツォルカ
ーナという町で生まれました。お父さんは大学の教授、お
母さんは小学校の先生をしていました。兄弟はおらず、ひ
とりっ子だったので、両親からたくさんの愛情をもらって、
大事に育てられました。
家には子どもが読む絵本から、むずかしい学問の本まで、
たくさんの本が本棚にぎっしり並んでいましたので、子ど
ものころからそれらの本をむさぼるように読んでいました。
ですからレトロックは早くから、他の同じぐらいの歳の子
たちより物知りになっていました。
いろいろな本の中でも、科学に関する本、とりわけ宇宙の
本を夢中で読みました。また、お父さんにおねだりして望
遠鏡を買ってもらって、毎晩遅くまで望遠鏡をのぞいて星
の観察をしました。おかげでレトロックは、宇宙のことに
大変くわしくなったのです。

小学校に通う歳になると、レトロックはたちまちクラスで
も、いや学校でも十番までに入るほどの、頭のよい生徒に
なりなした。どちらかというとおとなしい方の性格でした
が、なかのいい友だちも何人かできて、学校が終わるとみ
んなで元気よく遊びました。
それから中等学校、高等学校と進んでも、レトロックはい
つも成績が優秀で、とりわけ数学や科学の成績は学校じゅ
うで一番でした。

こうして彼は少年時代を、なに不自由なく楽しく過ごしま
した。そうしていつからか、将来科学者になりたいという
夢を持つようになったのです。






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