(2)
高等学校三年生の時、レトロックに試練が訪れます。夏に
お父さんを、冬にお母さんを、相次いで病気で亡くしてし
まったのです。兄弟もいなければ親戚もいないレトロック
は、突然ひとりぼっちになってしまいました。ひとりにな
って最初の三日間は、朝から晩まで泣いていましたが、四
日目には、
「泣いてばかりはいられない。これからはひとりで生きて
いかなければいけないんだ。」
と気づいて、めそめそするのをやめました。
さいわい、両親が残してくれたお金がまだいくらかあった
ので、学校を卒業するまでは働かずに何とかなりました。
でもその後、上の学校に行くお金はありませんでした。高
等学校を卒業すると、レトロックは進学をあきらめて、仕
事を探し始めました。
なかなか仕事が見つからずにいたある日、高等学校の科学
の先生が、レトロックの家にやって来ました。
「いい仕事があるよ。」
先生はそう言って、レトロックに一冊の本を差し出しまし
た。
「これは科学の専門雑誌だ。この本の後ろの方に、科学に
関連する仕事の求人情報が載っているんだが‥‥」
先生は、本の後ろの方のページを開いて、求人情報の中の
ひとつを指さしました。
「ツォルカーナ宇宙科学研究所で研究員見習いを募集して
いる。君は科学の成績がずば抜けてよかったから、このま
ま勉強をやめてしまうのはもったいないと思っていたんだ。
研究員見習いになるには、試験を受けなければならないん
だが、君ならきっと合格するだろう。」
レトロックは、真っ暗だった目の前に、ひとすじの光が射
した気がしました。
「ありがとうございます先生。僕、試験を受けてみます。」
試験の日、レトロックは胸をどきどきさせながら、研究所
に入っていきました。研究所の敷地は高等学校の何倍も広
く、四階建てや五階建ての建物が七つも八つも並んでいて、
それらの間には芝生の広場や池や林があって、それ自体が
ひとつの町のようでした。レトロックは、呆気にとられて
きょろきょろしながら、試験会場に向かいました。
試験会場には、百人以上の猫が試験を受けに来ていました。
試験はとてもむずかしかったので、レトロックは合格する
自信がありませんでした。ですから試験が終わって家に帰
るとすぐに、また別の仕事を探しはじめました。
ところがそれから一週間後、研究所から一通の葉書が届き
ました。レトロックは試験に合格したのです。びっくりし
たのと嬉しいのとで、レトロックはわけがわからなくなっ
て、泣いたり笑ったり飛び上がったりしました。そして少
し落ち着くと、科学の先生に合格の報告とお礼の電話を入
れました。
「おめでとう、レトロック。これからがんばれよ。」
「はい、先生!ありがとうございました!」
こうしてレトロック青年は、科学者レトロック博士の第一
歩を踏み出したのです。
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