スワロッティーとスパロッティー


(1)


ネコオルランドの小さな町に、スワロッティーとスパロッ
ティーというふたりの男の子猫がいました。
スワロッティーは、青みがかった黒い体に白いお腹、頭の
てっぺんには帽子をかぶったみたいな赤い模様があって、
ツバメのようにしゅっとした、背の高い男の子でした。ス
パロッティーは、黒と茶色のまだら模様の体に白いお腹で、
顔はすすをかぶったみたいに真っ黒で、スズメのように地
味な小さい男の子でした。
ふたりはまるで兄弟みたいに仲良しでした。スワロッティ
ーのお家は、スパロッティーのお家よりお金持ちだったの
で、おもちゃや本をいっぱい持っていたのですが、それを
ひとり占めせずにスパロッティーに貸してあげて、いつも
一緒に楽しく遊んでいました。
何もかもスパロッティーよりもたくさんのものを持ってい
たスワロッティーですが、ひとつだけスパロッティーをう
らやましいと思うことがありました。それは、スパロッテ
ィーが持っていたガラス玉です。その丸いガラス玉はさく
らんぼぐらいの大きさで、まるでルリビタキの羽のような
透き通った青い色をしていて、太陽にかざすときらきらと
きれいに光るのでした。スワロッティーは、時々スパロッ
ティーからそのガラス玉を借りて、太陽にかざしてはうっ
とりしてため息をつきました。
「ねえスパロッティー、僕が持っている本やおもちゃとこ
のガラス玉を交換してくれないかい?」
青いガラス玉が欲しくてたまらなくなったスワロッティー
は、何度かそう言って頼みましたが、その度にスパロッテ
ィーは、
「悪いけど、これはあげられないよ。ごめんね。」
と言って断ったので、あきらめるしかありませんでした。

ある日、スワロッティーがひとりで歩いていると、道ばた
の草むらの中で何かがきらきらと光っていました。近づい
てよく見ると、それはスパロッティーの青いガラス玉でし
た。
「なんでこんなところに落ちているんだろう?」
スワロッティーは、ガラス玉を拾い上げると、太陽にかざ
してうっとりと眺めました。その時、遠くの方からスパロ
ッティーの声が聞こえて来ました。
「おーい、スワロッティー!」
スワロッティーはどきっとして、どういうわけかとっさに
ガラス玉を、ズボンの後ろのポケットにしまい込んでしま
いました。(ネコオルランドの猫たちは、みんな私たち人
間と同じように、服を着ているのです。)
スパロッティーは、小走りにスワロッティーに近づいて来
ました。
「僕の青いガラス玉を見なかったかい?」
「ううん、見てないよ。」
どうしてそんなことを言ったのか、自分でもよく分からな
いのですが、スワロッティーは思わず嘘をついてしまいま
した。
「ズボンのポケットに入れておいたんだけど、穴があいて
いて、どこかに落としてしまったんだ。」
「僕、知らないよ。見てないよ。」
スワロッティーは、心臓をどきどきさせながら、嘘の上塗
りをしました。スパロッティーは、今にも泣きそうなくら
い悲しそうな顔をしていました。
「あのガラス玉はね、僕の兄さんのものだったんだ。」
「えっ、お兄さんの?」
スワロッティーはびっくりして、大きな声で言いました。
スパロッティーのお兄さんは、何年か前に病気で亡くなっ
ていたのです。
「兄さんが死んでから、僕はあの石を兄さんだと思って、
いつも持っていたんだ。ああ、でもこんなことになるなら、
大事に家にしまっておけばよかったよ‥‥」
そう言うとスパロッティーは、きょろきょろと草むらの中
を探し始めました。スワロッティーは、冷たい汗がたくさ
ん出てきましたが、もう今さら本当のことは言えませんで
した。
「いっしょに探してあげたいけど……僕、これから用事が
あるんだ。」
「そう‥‥もしどこかで見つけたら教えてね。」
「うん、わかった。」
スワロッティーは、スパロッティーをその場に残して、逃
げるようにそそくさと足早に立ち去りました。






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