宿なし猫ウォルホーの奇跡


(1)


ネコオルランドのヨークハームという大きな町に、ウォル
ホーという名前の、灰色と黒のまだら模様をした十五、六
歳ぐらいのオス猫がいました。
ウォルホーは宿無し猫でした。宿無しというのは、住む家
がないということです。
住む家がないので、ウォルホーは毎日夜になると、公園の
ベンチや路地裏に寝場所を探して、そこで寝て暮らしてい
ました。
どうしてそんなことになったのか、これから順序を追って
お話ししましょう。

ウォルホーの両親は、彼がまだ小さい時に病気で死にまし
た。だから彼は両親の顔を憶えていません。
ひとりになったウォルホーはその後、ヤムトゥーンという
小さな田舎町に住んでいる遠縁の親戚に引き取られました
が、その親戚のおじさんとおばさんはとても冷たい人(猫)
たちで、ウォルホーをあまり可愛がってくれませんでした。
おじさんとおばさんは、ウォルホーのことを名前で呼ばず
に、いつも「おい」とか「お前」とか呼んでいました。だ
から彼はそのうちに、ウォルホーという自分の名前を忘れ
てしまったのです。
ウォルホーは学校にも通わせてもらえず、家のつらい力仕
事ばかりやらされていました。ごはんも粗末なものしか食
べさせてもらえず、夜もろくに寝る時間もなく働かされて
いたので、とうとう彼は我慢ができなくなって、十二歳に
なったある日、その家を飛び出しました。

身寄りのなくなったウォルホーは、何日も歩いてヨークハ
ームまでやって来ましたが、持ってきたお金もすぐになく
なって、あとは右も左も分からずに、ほとほと困っていま
した。

「ねえ君、どうしたんだい?何か困っているのかい?」

そんな時に、ウォルホーより少し歳上くらいの、派手な服
を着たふたりの若いオス猫が、ウォルホーに声をかけてき
ました。

「はい。僕はひとりでヤムトゥーンから来たんですが、こ
こには知り合いもいなくて、持ってきたお金もなくなって
しまったんです。」
「ヤムトゥーンから?そんな田舎から出てきたのかい?道
理で君は薄汚い、冴えないなりをしているね。」

若いオス猫たちがそう言って笑ったので、ウォルホーは恥
ずかしくなって顔を赤くしてもじもじしました。

「お金がないなら、僕たちと一緒に仕事をしないか?なに、
とても簡単な仕事だよ。それにすごく儲かるんだ。」
「本当ですか?」
「本当さ。さあ、そうと決まったら僕たちと一緒においで
よ。」

ウォルホーは喜んでその猫たちについて行きました。ヨー
クハームみたいな都会には、こんな親切な猫がいるんだ、
ヤムトゥーンとは大違いだ、そう思うとウォルホーは嬉し
くなりました。






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