(6)
顔だけ横に向けて、うつ伏せに倒れていたウォルホーは、
すぐ目の前のアスファルトの割れ目から、一本の小さな草
が生えているのにふと気づきました。その時はもう寝返り
を打つことも、顔を背けることも出来なくなっていたので、
ウォルホーは否応なしにその草を見つめていました。
すると、その先端に垂れ下がっていたつぼみが音もなく静
かに開いて、名も知らぬ白い小さな花が咲きました。
ウォルホーは、思わず息をのみました。
それはもう奇跡としか言いようのない光景でした。
「なんて‥‥なんて美しいんだろう!」
ウォルホーはいまだかつて、こんなにも美しい光景を見た
ことがありませんでした。
そして、さらに不思議なことが起こりました。
ウォルホーはその一瞬で、生命とは何か、宇宙とは何かを
はっきりと理解したのです。
そしてこの時、自分がなぜこの世に生まれて来たのかとい
うことが、手に取るようにはっきりとわかりました。
「ああ‥‥僕はこれを見るために生まれて、今まで生きて
来たんだ!」
ウォルホーはこの時生まれて初めて、幸せとはどういうも
のなのかを知りました。彼は幸せでした。
「ああ神さま‥‥あなたは僕にこれを見せたかったのです
ね?そのために僕を、今この時まで生かしておられたので
すね?」
ウォルホーは、最期の瞬間にこのような結末を用意してく
れた神さまに感謝しました。
傍らで新しく開いた小さな生命を見守りながら、ウォルホ
ーは誰にも知られることなく、静かに眠りにつきました。
夜の空が白々と、少しずつ明るくなってきて、もうすぐ朝
が訪れようとする頃でした。
さて皆さん、このお話しはこれで終わりです。皆さんはこ
のお話しを、不幸な猫の悲しい物語とお思いでしょうか?
でも彼は、名もない一輪の花の誕生を目の当たりにして、
幸せだったのです。
人生の中でそれ以上の、何を望むことがあるでしょうか?
(おわり)
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