(5)


その後もウォルホーはしばらくの間、警察の留置場に入れ
られていましたが、歳上の不良猫たちにだまされ利用され
ていたということや、まだ子供と言ってもいい歳だったこ
とや、身寄りがなく引き取り手がいないことなどから、警
察の方でもどうしたものか、扱いに困っていました。
そして二週間ほどたった頃、ウォルホーはまるで厄介者を
追い出すように釈放されました。

自由の身になったウォルホーですが、家もなく仕事もなく、
頼る猫もいなかったので、夜は公園のベンチや路地裏に寝
て、朝目が覚めると、暗くなるまで一日じゅう仕事を捜し
て歩きました。
あちこち歩き回って、ようやく仕事を紹介してくれる事務
所を見つけて、そこで紹介してもらった仕事の面接に行き
ましたが、身寄りのない宿無しの子供を雇ってくれる所は
なかなかありませんでした。

それでもようやく、日雇いの荷運びや穴掘り工事などの力
仕事を見つけることが出来ました。それで少ないながらも
なんとか生きていけるだけのお金は稼げるようになりまし
たが、仕事は毎日あるわけではなく、時には何も食べられ
ない日もあって、暮らしは決して楽ではありませんでした。

こうして何年かが過ぎたある冬の日、ウォルホーは仕事中
に、重い荷物を持ち上げた拍子に腰を痛めて歩けなくなっ
てしまいました。
何日か寝込んで、ようやく歩けるようにはなりましたが、
それまでみたいに体を使うきつい仕事は出来なくなってし
まいました。
仕事をなくして、食べる物もろくに手に入らなくなったウ
ォルホーは日に日に痩せこけていきました。
そのうえに追い討ちをかけるように、冬のきびしい寒さの
せいで風邪をひいてしまい、歩くのもままならないぐらい
体が弱っていきました。

もう少しで春が訪れようとしている三月のある夜、ウォル
ホーは飢えと熱でふらふらになって、誰もいない裏道に迷
い込み力尽きて暗がりの中に倒れて、それきり動けなくな
りました。
ウォルホーは悲しくて寂しくて、顔をくしゃくしゃにして
泣きました。いつまでもいつまでも泣きました。

「ああ‥‥僕にはいいことなんて何もなかった‥‥生まれ
てから今日までのことを、どんなに一生懸命思い出してみ
ても、本当に何もなかった‥‥どうして僕は生まれて来た
んだろう?僕なんか生まれて来なければよかったのに‥‥」
涙が後から後から止めどなく流れ落ちて、顔の下の冷たい
地面を濡らしました。

どのくらい時間が過ぎたでしょう。意識が薄らいできたウ
ォルホーは、悲しさも寂しさもしぼんで、まるで人形のよ
うに心が空っぽになっていきました。
最期の時が近づいている、そう思ったウォルホーは、もう
何も考えずに、ただその時をじっと待っていました。

奇跡が起きたのはその時です。






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