(3)


二枚目の便箋を読み終え、続く三枚目にはまた、ユウトの
言葉が綴られていた。

「俺は希望を捨ててないよ。むしろ楽観してると言っても
いい。ヤマトのことだ。きっと生きている。あいつが死ぬ
わけないよ。そうだろう?あいつが死ぬなんて、想像でき
るかい?どこか辺境の村でかくまわれていて、助けが来る
のを待っているのかもしれない。彼が見つかるまで、俺は
何年でも探し続けるつもりだ。また何か分かったら知らせ
るよ。吉報を待っていてくれ。」

三枚目の便箋は、ここで終わっていた。三枚全て読み終え
ると、ヤヨイは残る最後の封筒に手を掛けた。ヤマトから
の手紙が入っているという封筒だ。封を開けると、中には
茶色く汚れたボロボロの紙切れが、四つ折りにして入って
いた。ヤヨイはもう一度、ゆっくり息を整えてから、震え
る手でその紙を開いた。
酷く乱れてはいたが、紛れもないあの懐かしい、ヤマトの
字だった。手紙は平仮名でたった三行の、短いものだった。
そこにはこう書かれていた。

 「ぼくへのあいが まだすこしでも
  のこっていたら まっていてくれ
  ぼくはかならず いきてかえるよ」

手紙を読み終えると、ヤヨイはゆっくり顔を上げ、窓の外
をぼんやりと眺めた。秋の陽が暮れようとしていた。
長い間、待ち望んでいた知らせが、今ようやく届けられた、
そんな思いで彼女の胸はいっぱいだった。もう迷うことは
ない、いつまでも待ち続けよう、彼女は強くそう心に誓っ
た。
(あの人は帰って来る。神様から託された役目を果たして、
私の元に必ず帰って来る。)

その時、窓の向かい側にある扉がカチャリと少しだけ開い
て、四歳ぐらいの小さな男の子が顔を覗かせた。ヤヨイの
様子を見て、男の子は怪訝そうな表情を浮かべて言った。
「どうしたの?お母さん‥‥」
心配しなくても大丈夫よ、とでも言う様に、ヤヨイは優し
い笑顔を彼に向けた。
「こっちへいらっしゃい。お話しをしてあげるわ。あなた
のお父さんのことを。」
父親そっくりの目をした男の子は、安心した様ににっこり
笑って、小走りに母親の元へ駆け寄って行った。

窓から射し込む夕陽が、親子のいる部屋をオレンジ色に染
めていた。

                  (怒らない男・終)






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