第十二章 殺人者の手記

(1)


夜遅く、自宅へ戻ったサトルは、倒れ込む様にして椅子に
腰掛け、机の上に頭を伏せた。
極度の疲労と絶望感が、彼の全身を襲っていた。
(やはり駄目だった‥‥どうしても、あれだけは言えなか
った‥‥俺の心を支配している、あの事だけは‥‥)

ふと彼は、ミユが最後に言った言葉を思い出した。
(でも彼女には、解っていたのかもしれない‥‥
俺が言わなくても‥‥)
そうして彼は、ゆっくりと顔を上げ、机の引き出しに手を
掛けた。

(運命は、変えられない‥‥)
心の中でそう呟きながら、彼は引出しを開け、中から一冊
の雑誌を取り出した。
それは、今から二年程前の週刊誌だった。

そこには、サトルの恋人を殺して、その直後に自殺した男
の手記が、掲載されていた。

恐らく事件を起こす少し前に書かれたのであろう、その手
記を記した小さなノートが、事件現場の男の死体の、すぐ
脇に落ちていたのだと言う。
何処から嗅ぎつけたのか、その週刊誌は、警察で厳重に保
管されていた筈の、その手記の内容を手に入れると、一大
スクープとして、その全文を、誌上に掲載したのだった。

それは世間で一時、ちょっとした話題になったものの、徐
々にその熱は冷めていき、やがて忘れ去られていった。
しかし、恋人を奪われた苦しみから、立ち直れずにいたサ
トルは、この記事に衝撃を受け、どうしても頭から消す事
が出来ず、こうして手元に残しておいたのだ。

彼は、もう何十回も目を通したその記事と、改めて向き合
った。

(これが、俺の運命だ!)
この二年間、彼を苦しめ、支配してきたその手記に、今ま
た再び、彼は目を通し始めた。

その手記の内容は、次の通りである‥‥





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