(2)
「やっぱり此処だったのね。」
秀子は優子の横に歩み寄って言った。
「うん。さっき実家に行って来たとこ。秀ちゃんは優太ち
ゃんの定期検診に出掛けたって母さんが言うから、帰るま
でちょっと散歩に出たの。よく此処だってわかったわね?」
「そりゃあわかるよ。双子だもん。どう?見える?」
「見てごらんよ。」
優子に促されて、秀子は窓の外を見た。山は雲に隠れて見
えなかった。
「あー、残念。」
「優太ちゃんは?」
「父さんと母さんが見てくれてる。」
「一歳になったのか‥‥早く顔を見たいわ。」
「嶋くんがね、時々うちに来て、優太と遊んでくれるの。
まるで父親気取りよ。」
「へえ‥‥秀ちゃん、彼と結婚したら?」
「ええっ?駄目よ!」
「どうして?彼もその気あるんじゃない?」
「そうかな?」
「そうよ。」
優子に冷やかされて、秀子は少し顔を赤らめた。
「優ちゃん、まだ病院には通ってるの?」
「うん。でももうすっかりよくて、仕事も普通にしてるの
よ。」
「そう、よかった。誠くんは元気?」
「元気よ。最近ね、絵が少しずつ売れるようになったの。」
「本当?凄いじゃない!」
「まだ全然、それだけで生活は出来ないけどね。」
「私ね、優ちゃんから誠くんと結婚するって聞かされた時、
正直なんでって思ったの。売れない絵描きと一緒になって、
将来が不安じゃないのかなって。でも、優太が生まれて解
ったわ。人は誰かのために生きる時、初めて幸せになれる
んだって。ありがとう優ちゃん。」
秀子がそう言うと、優子は嬉しそうに笑って下を向いた。
「私、手術を受けてた時、秀ちゃんの呼ぶ声が聞こえる気
がしたの。」
「ええっ、本当に?」
「それで私、その声のする方へ行こうとしてたの。だから
もしかしたら、秀ちゃんが呼んでくれなかったら私、助か
らなかったのかも。」
「まさか。」
「ううん、きっとそうよ。ありがとう秀ちゃん。」
優子に見つめられて、秀子は照れたように目を反らして窓
の方を見た。
「あっ、見て!」
秀子に言われて優子が窓の外を見ると、先ほどまで雲に隠
れていた山が、いつの間にか姿を現していた。二人は話す
のをやめて、しばらくじっとそれを見つめていた。
「奇跡だね。」
「うん、奇跡だね。」
雄大な青い山。二人の生まれ育った街を優しく包み込む山。
二人が幼い頃に同じ思いで見ていた山。その山が、今も変
わらぬ姿で二人を見守っている。おおらかに裾野を広げて、
二人の遠い未来を、まだ定まらぬ運命を見守ってくれてい
る。
優子と秀子はそう思った。
僕もそう思いつつ、この辺で筆を置くことにする。
(優子と秀子・終)
前へ 戻る
|