第一章 ハヤトとエイゴ

(1)


夕陽に染まった黄昏時の世界が、茜色から紫へ、紫から藍
色へ、藍色から炭色へと次第に色を失い、暗黒の夜に呑み
込まれていく‥‥

終焉を予感させる時代だった。文明の発展と引き換えに肥
大化した欲望のるつぼの中で、環境破壊、異常気象、食料
不足等、様々な問題が深刻化し、世界の人口は激減した。
視野の狭い正義、不寛容な正義が幅を利かせ、民族や宗教
やイデオロギーを名目に、人々は集団を作り、敵対する集
団を探しては争いを起こした。各地で社会が崩壊し始め、
至る所で大小様々な戦争や紛争や暴動が絶え間なく生まれ、
まるで肉体を蝕む末期の腫瘍のように、膨張や分裂を繰り
返していた。もはや人々が平和に暮らせる場所など何処に
も見当たらなかった。未来のない絶望の時代に、ただ怒り
と憎しみだけが人々の生き続ける原動力になっているよう
だった。

これは、そんな時代の物語である。

夜の闇の中を、二人の若い男が歩いている。一人は二十歳
前後の、大柄ながっしりした体格で名はエイゴ、もう一人
のそれより少し年下の、細身の小柄な少年はハヤトという。
二人とも薄汚れた服にぼさぼさの頭で、冬の冷たい風の吹
く町の人気のない裏通りを歩いていた。
町は荒廃していた。建物の窓ガラスは至るところで割られ、
商店は強盗や略奪の跡を無惨に晒していた。二人はその中
の一つのビルの、鍵の掛かっていない部屋に忍び込み、奥
の床に座った。

「どのぐらい歩いたかな?」
小柄なハヤトがエイゴに尋ねた。
「四日‥‥いや、五日かな。」
体格のいいエイゴはそう答えて、近くにあったテーブルを
手前に引き寄せ、上着の大きなポケットからパンと缶詰と
水を、懐から紙袋を取り出してその上に置いた。

「何だい、それ?」
ハヤトが紙袋を見て尋ねると、エイゴはにやりと笑って、
袋の中から一丁の拳銃と何十個もの弾丸を出してみせた。

「何処でそんなものを手に入れたんだい?」
ハヤトは目を丸くして驚いた。
「孤児院から拝借して来たのさ。金と一緒にな。」
「そんなもの、使わなけりゃいいけど‥‥」
「護身用だよ。いざという時のための。お前には銃は撃て
ないだろうな。」

二人は同じ孤児院に入っていた。その環境は劣悪で、職員
による虐待や子供同士のいじめなど、日常茶飯事だった。
そんな生活が堪えられなくなって、一緒に孤児院を脱走し
て来たのだった。

「この町も物騒だな。早いとこ腹ごしらえをして寝ちまお
う。明日、明るくなったら出発だ。」
二人は手早く食事を済ますと、そのまま床に横になった。
部屋の外は静かで、秋の虫の生き残りの鳴き声が微かに聞
こえていた。






            戻る          次へ