(5)


話が終わってハヤトたちが長老の小屋を出ると、靄は晴れ、
辺りはもう明るくなり始めていた。群青色の空に浮かぶ雲
が、東の方から徐々にうす紫色に、そして明るいオレンジ
色に、緩やかなグラデーションをつくりながら輝いている。

(美しい‥‥)

地上がどんなに荒れ果てようと、太陽は必ず昇る。空は太
古の昔から変わらぬ美しさで、大地を優しく包み込んでく
れる。それは人間がこの世を去った後も変わらないだろう。
そう思うとハヤトの胸は、暖かな安心感で満たされていっ
た。
(生きればいいんだ。ただ精一杯生きればいいんだ。長老
の言う通り。)
彼の心に生まれて初めて、この揺るぎない確信が芽生えて
いた。

ハヤトはゆっくりと、傍らにいるサツキの方に顔を向け、
優しく微笑んでみせた。するとサツキも、こくりとひとつ
小さく頷いて微笑み返した。まるで彼の心の内が解ってい
て、自分も同じだというように。

そしてハヤトは、旅で出会った様々な人を思い浮かべた。
彼らの怒りが、憎しみが、悲しみが、ほんの少しでも消え
てなくなりますように。そして、不幸にしてこの世を去っ
た人たちの魂が、安らかでありますように。彼は切にそう
願わずにはいられなかった。

ケンジが後ろからゆっくりと二人に歩み寄って、肩をぽん
と叩いた。
「朝食の後で村の中を案内するよ。さあ、行こう。新しい
生活が待ってる。」

三人はゆっくりと歩き出した。その行く手の方角、村を囲
む森の向こうから朝日が昇り始めている。彼らの後ろ姿は
徐々にその光の中へ呑み込まれていき、やがて溶け入るよ
うに消えていった。

                (続・怒らない男・終)






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