(3)


その後、尾津は二度とユキに会おうとはしなかった。電話
を掛ける勇気がなかった。
彼女の顔を思い浮かべる事さえしない様に努めた。
彼女の事を考えるのは、まるで自分の急所を自分で突き刺
す様に苦痛だった。

(いや、これでよかったんだ。)
と彼は、無理矢理自分を納得させようと言い聞かせた。

(俺の独りよがりな絶望に、彼女を巻き込んで死なせずに
済んだんだ。生きてさえいれば彼女だって、またいつか人
生が好転する時も来るだろう。
そうなればあの時、死んでいなくてよかったと思うに違い
ない。そうさ、これでよかったんだ。これで‥‥。)

半年後、尾津はたまたま目にした新聞のある小さな記事の
中に、ユキの名前を見つけた。

それは、心中事件の記事だった。

あの後彼女は、彼とは別の男と一緒に、その目的を果たし
ていたのだ。

殆ど憎しみに近いほどの、これまで経験した事のない、ど
す黒い軽蔑の念を込めて、尾津は自らをあざ笑った。

(何の事はない。結局のところ、彼女はほんもので、俺は
にせものだったという事だ。)






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