(2)
ゴーストロモ号の沈没事故は、ネコオルランドじゅうの新
聞で大きく取り上げられました。たくさんの猫が犠牲にな
って、ロポックの友だちのアスキヴァもそのひとりです。
それからというもの、ロポックはすっかり塞ぎこんでしま
い、家から一歩も出なくなってしまいました。家の中では
いつも、アスキヴァの青いカーディガンを着ていました。
アスキヴァはロポックより少し背が高かったので、ちょっ
とぶかぶかでしたが、入浴のとき以外はいつも、寝るとき
でも着ていました。
心配した何人かの友だち猫は、ロポックの家を訪れて、彼
を慰めたり励ましたりしました。
「つらいのは分かるけど、いつまでも塞ぎこんでいてはい
けないよ。もっと前向きにならないと。」
「君たちには分からないよ。僕にはあの時のアスキヴァの
顔が忘れられないんだ。氷のような目をしたアスキヴァが、
だんだん小さくなって、海の中に消えていった‥‥それが
頭にこびりついて離れないんだ。ああ、どうして僕はあの
時、先にロープをつかんでしまったんだろう?どうしてア
スキヴァに譲らなかったんだろう?」
ロポックはいつでもこんな調子で、最後は頭を抱えて泣き
出すのです。これには友だちの猫たちもほとほと困ってし
まい、だんだんロポックに会いにいくのが億劫になってき
て、とうとう誰も彼の家に足を運ばなくなってしまいまし
た。
友だちの他にも、事故のニュースを見聞きして、生き残っ
たロポックを一目見ようと訪ねてくる者や、面白い記事を
書くために話を聞きにくる新聞記者や、さまざまな見知ら
ぬ他人猫たちがやってきました。なかにはサインをくださ
いなんて言ってくる不届きな猫までいる始末です。そのく
らいロポックは、ちょっとした有名人になっていたのです。
そんな調子だったので、そのうちにロポックは、誰かが来
ても扉を開けなくなって、誰とも会わずに完全に家にとじ
込もってしまいました。誰とも会わなくても、ロポックは
少しも寂しいとは思いませんでした。ただアスキヴァが死
んでしまったことが悲しいだけだったのです。
毎日ロポックはひとりきりで、アスキヴァのことばかり考
えていました。思い出されるのは、楽しかったことばかり
です。川で魚釣りをして、見たことのない魚をつり上げた
時のことや、原っぱに寝転がって空を見ながら、星の名前
の言い合いっこをしたことや、好きな女の子の話で盛り上
がったことや、学校帰りに海の見える丘まで競走したこと
や、数え上げればきりがありません。
楽しかった思い出に浸ったあとで、最後にいつも頭に浮か
ぶのは、自分の手を離れて海に落ちていく、あの時のアス
キヴァの姿でした。するとロポックの目からは、知らず知
らずのうちに涙がぽろぽろとこぼれ落ちるのでした。
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