(4)


今日も海の上は雲ひとつない快晴です。ミレニアム・ドル
フィン号の操舵室には、レクーとリアーニが並んで立って
いました。

「こんなちっぽけな船でゴーフみたいなでかい魚と戦える
のか?」
リアーニが大あくびをしながら、退屈そうにぽつりと言い
ました。確かにこのミレニアム・ドルフィン号は、船首か
ら船尾まで十メートル足らずです。心配になるのも無理は
ありません。

「なあに、十メートルや十五メートルのクジラと綱引きし
たって負けやしないさ。ドルフィンを見くびってもらっち
ゃ困るな。」
レクーは舵を取りながら、表情ひとつ変えずに答えました。

その時です。

「ん?あれは何だ?」
リアーニが前方の遠くの海を指差して言いました。レクー
がそちらの方を見てみると、その辺りの海に黒い大きな影
があります。

「分からないが‥‥何かいるな。」
レクーがそう呟いた次の瞬間です。突然、海面が大きく盛
り上がったかと思うと、虹色に光る美しい鱗の、巨大な蛇
の胴体のようなものが浮かび上がって来て、海の上をおよ
そ十数メートルに渡って、大きな弧を描いてゆっくり滑る
ように流れていき、また海の中に消えていきました。
その様子を見ていたレクーとリアーニは、それが消えた後
もしばらくの間、言葉を失って呆然としていました。

「でかいな‥‥二十メートル、いや三十メートルあるかも
しれないぞ。」
リアーニが、ようやくそれだけ言葉を絞り出しました。

「リアーニ、ギャンゴーとロミを呼んで来てくれ。」
レクーに言われて、リアーニが船の奥からふたりを連れて
来ました。しばらく待っていると、また先ほどと同じよう
に、巨大な虹色の鱗が大きく弧を描いて海上を滑って行き
消えました。

「あ、あれがゴーフですか?恐ろしく大きいですね‥‥」
それを見て、ロミは目を大きく見開き、口をぽかんと開け
て驚きました。ギャンゴーは表情を変えずにじっと観察し
ていました。

「どうします、隊長?」
レクーがギャンゴーの顔を覗き込んで聞きました。

「船を出来るだけあいつに近づけてくれ。先端に麻酔薬を
仕込んだ銛を打ち込んで眠らせて、港まで引っ張って行く。
殺さずに生け捕りにしたいんだ。リアーニ、頼む。」
「よしきた、任せとけ!」
そう言うとリアーニは船内から銛を持ってきて、操舵室を
出て船首へ向かおうとしました。すると、レクーがそれを
引き留めるように叫びました。

「おい、捕鯨砲があるからそれを使え!」
捕鯨砲はクジラを獲る時に使う、銛を打つ機械です。

「そんなものは必要ない!」
リアーニは、そんな声には構わず銛を持って舳先(へさき)
へ向かい、そこで銛を構えて、船がゴーフに近づくのをじ
っと待ちました。






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