(5)
ミレニアム・ドルフィン号は、船から遠ざかっていくゴー
フの黒い影を追って、徐々にスピードを上げました。
「追いつけるか?」
ギャンゴーが、船を操縦するレクーの方を見て聞きました。
「なに、訳ないですよ。」
レクーは自信満々に答えました。するとその言葉通り、ド
ルフィン号は少しずつゴーフとの距離を縮めていき、その
間リアーニは、舳先で銛を構えたまま、その時が来るのを
じっと待っていました。
そして、船が黒い影にあとおよそ十メートルまで近づいた
時です。黒い影が浮かび上がって、再び虹色の鱗が海面の
上に姿を現しました。
「よし、今だ!」
リアーニはそう叫ぶと、あらん限りの力を込めて、鱗に向
かって銛を投げました。銛は糸を引くように真っ直ぐ飛ん
でいき、鱗の真ん中に突き刺さりました。
「やったあ!」
後ろからロミが、思わず歓声を上げました。
ゴーフは一瞬、体をびくんと震わせて、慌てたように海中
に潜り込んだかと思うと、さらにスピードを上げてドルフ
ィン号から逃げようとしました。
船から銛の末端に繋いである長いロープが、するすると引
っ張られていき、ぴんと張り詰めたかと思うと、ゴーフに
引かれて船は急に加速しました。
「わっ!」
舳先に立っていたリアーニは、危うく後ろに転びそうにな
りました。
「逃がすなよ。麻酔が効いてくるまで付いていくんだ。」
「了解。」
ギャンゴーの指示に応えて、レクーは船が転覆しないよう
に細かく舵を取りながら、ゴーフを追いかけました。
その後ドルフィン号は数十分ほど、ゴーフに引っ張られて
いましたが、ゴーフの泳ぐ勢いは一向に落ちる気配があり
ません。
「あの野郎、ぴんぴんしてやがる。」
操舵室に戻ってきたリアーニが、苦々しげに言いました。
「よしリアーニ、もう一本銛を打ち込んでくれ。」
ギャンゴーにそう言われると、リアーニはすぐさま操舵室
を飛び出していきました。
舳先に立つとリアーニは、銛に繋いだロープを、ウインチ
(ローラー式の電動巻き上げ機)で巻き取っていき、ゴー
フとの距離を徐々に狭めていって、約十メートルほどに近
づいたところで止めました。
そして再びゴーフの背中が海面に浮かび上がってきた時、
リアーニは新しい銛を、狙いをすまして力一杯投げました。
するとそれは、先ほどと同じように真っ直ぐ飛んでいき、
一本目の銛のすぐ横に、まるで測ったように突き刺さりま
した。
「やった!さすがはリアーニさん!」
操舵室でロミが、再び歓声を上げました。
ところがゴーフは、その後もどれだけ時間が経っても、全
く眠る気配はありません。そこでリアーニが、さらにもう
一本銛を打ち込みましたが、やはりゴーフの動きは衰える
ことなく、それどころかより勢いを増して、猛烈な速さで
ドルフィン号を引き始めました。
「なんて化け物だ。」
ギャンゴーは、驚いた表情を浮かべてそう呟きました。
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