(8)


「船が沈む前に、早くロミを助けないと。」
ギャンゴーが、レクーとリアーニの顔を見てそう言いまし
た。

「でもどうやって?重くてびくともしないぜ。」
リアーニが途方にくれて呟くと、ギャンゴーは冷静にこう
答えました。

「面倒だが、ロミの上に乗っかっている機械を分解して、
少しずつどけていくしかないな。」
その言葉に従って、三人はバールやスパナなどの工具を使
ってロミの上の機械を分解し始めました。

不運というのは、得てして重なるものです。
つい先ほどまで雲ひとつなく晴れていた空が、にわかに黒
い雲に覆われてきて、雨が降りだしたかと思うと、あっと
いう間に雨足が強まってどしゃ降りになりなした。

「ちくしょう、よりによってこんな時に‥‥」
リアーニが、いまいましげにうめきました。
三人は懸命に機械の分解をし続けましたが、なかなか作業
ははかどらず、そのうちに雨のせいもあって水位はどんど
ん上昇して、甲板はすっかり海に呑み込まれて、それより
少し高い位置にある操舵室の床にも、海水が入り込んでき
ました。

「皆さん、もう無理です。時間がありません。私に構わず、
救命ボートで脱出して下さい。手遅れにならないうちに。」
ロミが、悲しそうに声を震わせて言いました。

するとリアーニが、
「馬鹿なことを言うな!」
と、ものすごい剣幕で怒鳴ったかと思うと、すぐに表情を
和らげて、にこりと笑って見せました。
「俺はあんたの作った料理の味が忘れられないんだ。絶品
だったからな。一緒に帰ってもう一度、あれを食べさせて
くれよ。」

それを聞いて、今度はレクーが、
「私はこの船の船長だ。船長は一番最後に船を降りるもの
だ。君が残っているのに、私が船を去るわけにはいかない
よ。」
と言って、普段冷静な彼には珍しく笑顔を見せました。

「みんな‥‥」
ロミは、目に涙を溜めて声を詰まらせました。その様子を
見ていたギャンゴーは、満足げに微笑んでこう言いました。
「どうやら皆の心はひとつのようだな。聞いた通りだ、ロ
ミ。我々は決して仲間を見捨てたりはしない。」

その時、レクーが窓の外を見て叫びました。
「見ろ!ゴーフだ!」

レクーの言う通り、数百メートル離れた所の海面にゴーフ
の背中が現れ、こちらに向かって来るのが見えます。

「くそっ、とどめを刺す気だな。」
リアーニがそう呟くと、三人はロミを守るように取り囲ん
で屈み込み、ゴーフの襲撃を待ち構えました。
ゴーフは、ドルフィン号の手前まで来ると、突然海の中に
潜り込みました。その直後、船はがたんと縦に揺れて、そ
れきり静かになりました。

「変だな、襲ってこないぞ。」
そう言ってギャンゴーは首を傾げました。
そして不思議なことに、操舵室の床の水が引き始め、甲板
も海の中から浮かび上がってきました。

「どうやらゴーフが、船を真下から持ち上げているようだ
な。ひっくり返す気か?」
レクーが怪訝そうな顔をして言いました。






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