(3)


パロッソと女の子は、お互いに自己紹介をし合いました。
といっても、もちろんパロッソは、自分が泥棒だというこ
とは言いませんでした。名前もパロッソではなく、そこか
ら一文字取ってロッソと名乗りました。
女の子はポワンカレーナという名前で、その公園の近くに
両親と一緒に住んでいました。生まれた時から体が弱くて、
あまり激しい運動が出来ませんでした。パロッソは泥棒と
いう仕事柄、奥さんも子どももいなかったので、ポワンカ
レーナと話をしていると、まるで娘のように思えてきて、
とても楽しい気分になりました。

ある時、ポワンカレーナがいつものように、広場で遊んで
いる子どもたちを眺めているのを横から見ていたパロッソ
は、彼女に訊ねました。
「いつも君はここから、みんなが遊んでいるのを見ている
けど、辛くないのかい?みんなのことが羨ましくならない
のかい?」
するとポワンカレーナは、首を横に振りました。
「いいえ、ちっとも。みんなが遊んでいるのを見るのは楽
しいわ。みんなが楽しそうに笑っていると、私も一緒に遊
んでいるみたいな気持ちになるの。」
それを聞いてパロッソは驚きました。人が自分より楽しそ
うだったり、幸せそうだったりしたら、普通は羨ましくて
悲しかったり、悔しかったりするものです。(人じゃなく
て猫ですが。)パロッソが泥棒になったのも、幸せそうな
お金持ちが羨ましかったからなのです。ですからポワンカ
レーナの言うことが、すぐには信用出来ませんでした。
「だけど、ひとりで寂しくならないのかい?友だちがほし
いと思わないのかい。」
「友だちはいるわ。」
「え?」
「おじさんが友だちだわ。そうでしょう?」
そう言われてパロッソは、はっとしました。
「そうだったね。私が君の友だちだ。」
「おじさんがいるから寂しくないわ。私は幸せよ。」
ポワンカレーナがそう言ってにっこり笑ったので、パロッ
ソは嬉しくなりました。そしてその時気づいたのです。人
が楽しそうだったり、幸せそうだったりするのを見ると、
自分も幸せな気持ちになるということの意味に。人じゃな
くて猫ですが。
(そうか、彼女が言っていたのは、そういうことだったの
か!)
パロッソは、この時まるで生まれ変わったみたいに清々し
い気持ちになりました。そして、こう心に決めたのです。
(もう二度と、ものを盗んだりしないぞ。)






前へ          戻る          次へ