(4)


小学校を卒業して、ヤマトは地元の公立中学へと進んだ。
中学生になると彼は、以前にも増して他人との違いを感じ
る様になって、友だちと遊んだりすることもなく、絵を描
いたり本を読んだりして一日を過ごす、内向的な大人しい
性格になっていった。
そして彼が十四歳の時、その後の生涯にわたって忘れられ
なくなる、ある事件が起きた。

始業前の朝、ヤマトは教室に向かって、廊下を歩いていた。
曲がり角に差しかかった時、向こう側の死角から、誰かが
走り込んで来て、避ける間もなくぶつかった。跳ね飛ばさ
れたヤマトは、もんどり打って倒れてしまった。
「何してる!こののろま!」
相手の男子生徒はそう怒鳴ると、ヤマトの背中を思いきり
蹴り上げた。
「うっ!」
ヤマトの背中に、今まで経験したことのない激痛が走った。
これが他人から受けた、初めての暴力だった。
それはSという名の、校内でも少しばかり名の知れた、素
行の悪い生徒だった。Sはよく、自分より強い者には近寄
らず、弱い者ばかりをいじめていると噂されていた。
「おい、どうした?立てないのか?じゃあもう一回蹴って
やろうか?」
うずくまっているヤマトを見下ろし、Sは面白そうににや
にや笑いながら言った。
ヤマトは恐ろしかった。痛みよりもむしろ、初めて振るわ
れた暴力への驚きで、頭が真っ白になって、立ち上がるこ
とが出来なかった。
その時、偶然通りかかった三人の生徒たちの中の一人が、
Sの腕を鷲掴みにして言った。
「おい、何してる!」
三人はラグビー部の部員で、皆体が大きく、とりわけSの
腕を掴んだTという生徒は、ラグビー部のキャプテンで、
クラスでもリーダー的存在だった。
「見てたぞ!ひどいことしやがる!」
三人は、倒れているヤマトの手を取り引き起こすと、Tを
中心にして、Sを取り囲む様に立ちはだかった。
「こいつ知ってるぜ。前にも誰かをいじめてた。」
「俺も見たことある。」
「とんでもないやつだな!」
三人は口々にそう言って、Sを睨みつけた。大柄な三人に
囲まれたSは、すっかり怖気づいて、何も言い返せなかっ
た。
「おい君、一発殴り返せよ。大丈夫、俺たちが見ててやる
から、こいつは何も出来ないさ。」
「えっ?」






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