(8)


友人になったヤマトとユウトは、いつも一緒に登下校し、
学校でもいろんな話をした。休日にはよく、お互いの家に
行って遊んだ。
ヤマトの祖父母は、明るく礼儀正しいユウトに好感を持っ
た様で、孫にいい友だちが出来たと言って喜んだ。ヤマト
が家で描き溜めた絵を見せると、ユウトはとても感心して、
「君は絵が上手いなあ。僕は駄目だ。何を描いてもマル描
いてチョンさ。君みたいに描けたらなぁ‥‥」
と、羨ましがった。
ユウトは、とても大きな家に住んでいた。大学教授のお父
さんは、休日も仕事で家を留守にしがちで、あまり会う機
会がなかった。上品で綺麗なお母さんは、
「まあ、ヤマトさん、いらっしゃい。」
と、いつも優しくヤマトを迎え入れてくれた。
病弱な十歳の妹ヤヨイは、色が白くて大人しい子だった。
最初のうちはヤマトに人見知りをして、あまり口をきかな
かったが、二三度会ううちにだんだん打ち解けて来て、仲
良く話せる様になった。ヤマトも彼女を、実の妹のように
可愛がって、絵を描いたり本を読んだりして一緒に遊んだ。
彼女の肖像画を描いて見せてあげると、
「わあ!これが私?」
と、嬉しそうにはしゃいだ。

ヤマトはこの友人になら、何でも正直に話せると思った。
ある日彼は、中学の時に暴力を振るわれ、報復として暴力
を強要された事件のことを話した。ユウトは、ヤマトの受
難を同情してくれた。
「正義にも許しの心が必要だよ。行き過ぎた正義は争いを
生む。不寛容な正義や視野の狭い正義が戦争を生むんだ。」
彼が自分と同じ考えなことに安心したヤマトは、思いきっ
て自分には怒りの感情がないこと、その原因が子供の時に
遭った、隕石の爆発事故であるらしいこと等を、全て包み
隠さず話してみた。ユウトは話の最後まで、口を挟まず真
剣に聞いてくれた。
「君はどう思う?僕は間違った人間なんだろうか?」
最後まで話し終わると、ヤマトはユウトに意見を求めた。
「確かに‥‥」
ユウトは慎重に考えを整理しながら話し始めた。
「怒りの感情は、今の人間に必要なものなんじゃないかな。
怒りの感情があるから、自分の身を守れるし、心が折れず
に生きて行けるんだと思うよ。でも‥‥」
ここで彼は一旦言葉を切って、ヤマトの顔を覗き込みなが
ら、安心させる様に笑顔を作った。
「君は間違ってないと思うよ。もしかしたら君は、新しい
タイプの人間なのかもしれない。これから君みたいな人間
が増えてくるのかも。そうしたら世の中の常識も、少しず
つ変わっていくんじゃないかな。世界は絶えず変わるもの
だよ。」






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