(9)


二年生に進級すると、二人は同じクラスになった。ユウト
のお陰でヤマトは、徐々に心を開いて、物事を前向きに考
えられる様になった。
夏休みに二人は、近くの山へハイキングに出かけた。山頂
に着くと、並んで眼下に広がる景色を眺めた。パノラマの
中央辺りに、二人が住む町がぽつんと見えた。
「見てみなよ。」
それを指さしながら、ユウトが言った。
「僕たちの町だ。何て小さいんだろう。」
本当にそうだ、とヤマトは思った。人間は何てちっぽけな
んだろう。僕は何てちっぽけなことで悩んでいたんだろう。
ヤマトは、横にいるユウトの顔を見た。
「君のお陰で、生きるのが楽になったよ。ありがとう。」
「何だよ急に、あらたまって。」
ユウトは照れ臭そうに笑った。

夏が過ぎ、秋が深まり、年を越して、二人は、互いに人と
して成長し合い、高め合いながら、充実した日々を送って
いった。
三学期も終わりが差し迫った、三月のある日、昼休みに二
人は教室で話をしていた。話題は自然に進級から進学、そ
の先の進路についてになった。
「君は医大に進んで、将来医者になりたいって言ってたよ
ね。僕は自分が何になりたいのか分からないんだ。何をし
たらいいのかな‥‥」
心許ない様子でヤマトはそう言った。
「絵描きになれば?」
「絵描き?」
「うん。君の絵は上手いだけじゃなくて、何か特別なもの
がある。才能あると思うよ。」
「そうかな‥‥なれるかな、絵描きに。」
「なれるさ。」
ユウトからの思いがけない提案に、ヤマトの心は大きく揺
さぶられた。絵描きになる‥‥確かに絵を描くのは好きだ
ったが、それを仕事にするなんて、考えもしなかった。し
かし、言われてみるとそれも、あながち不可能なことでも
なさそうな気がして来るのだった。ヤマトは、自分の未来
が急に明るく照らし出され、自分の内からみるみる力が湧
き上がって来るのを感じた。
やがて昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り、生徒たちは皆、
慌ただしく自分の席に戻って行った。
程なくして、先生が教室の扉を開いて入って来たが、教壇
には向かわず、そのまま真っ直ぐヤマトの席の方へ近づい
て来た。
そして、神妙な面持ちでヤマトにこう言った。
「午後の授業は受けずに、このまま帰りなさい。今、君の
家から電話があって、おじいさんが倒れたそうだ。」






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