(2)


「変なこと言う様だけど‥‥」
ヤマトは、少しためらいがちに、ユウトに話を切り出した。
「最近、テレビやインターネットを見てて思うんだ。世の
中歪んでるって。」
「どういうこと?」
「うん‥‥世界には、住む家も、着る服も、食べるものも
ない人たちがたくさんいるのに、その一方で、大きい家に
住んで、高級車に乗って、贅沢なものを毎日食べている人
たちもいる。いや、何を今さらそんな分かりきったこと言
ってるんだって思うかもしれないけど、何て言ったらいい
か‥‥格差があまりにも大き過ぎるなって思うんだ。年々
その格差が、どんどん広がっていってる気がするんだ。」
突然そんな話をされて、ユウトは少々戸惑い気味だったが、
ヤマトは構わず話し続けた。
「たぶん、僕自身が働き出して、そういうことに目が向く
様になったからだと思うけど‥‥テレビやインターネット
を見てると、その合間合間に、ユニセフや赤十字や、いろ
んな人道支援団体の映像が流れるだろ?みんなどうして平
気なのかな?飢餓や病気で痩せ細って、今にも死にそうな
人たちの映像を見て、どうして平気でいられるんだろう?」
ヤマトは一旦言葉を切り、テーブルの上のコーヒーを一口
飲んで、渇いた喉を潤すと、再び話し始めた。
「祖父が死んで、僕は高校を辞めて働かなきゃならなくな
った。自分と祖母と、二人分の食いぶちを稼がなきゃなら
なくなった。突然毎日が辛いものになった。でも世界には、
僕よりもっと苦しんでいる人たちがたくさんいる。それを
考えると、僕は‥‥悲しくてたまらなくなるんだ。」
話しながらヤマトの目は、涙で潤んで来た。
「その一方で、一生かかっても使いきれない程の金を持っ
ている人たちもいる。その人たちは平気なんだろうか?悲
しくないのか?良心の呵責を感じないんだろうか?」
「おい、大丈夫か?」
尋常でない程深刻なヤマトの様子に、ユウトは心配になっ
て話を遮ろうとしたが、そんな声も耳に入らないぐらい、
ヤマトは自分の言葉に没頭していた。
「こんな偉そうなこと言ってるけど、僕だって同じさ。毎
日の生活に追われて、募金のひとつも、ボランティアのひ
とつもしてないんだから。」
「僕もしてないよ。」
「君は将来、人の命を救うために勉強してるじゃないか。
僕は何もしてない。自分のことで精一杯で、何も出来ない
んだ。辛い辛いと言いながら、結局自分のことしか考えて
ないのさ。エゴが強過ぎて、自己犠牲の精神が足りないん
だよ。」
言いたいことを全て吐き出すと、ヤマトはうなだれて黙り
込んでしまった。






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