(3)


「魚と鳥の寓話を知ってるかい?」
しばしの沈黙の後、ユウトがヤマトに問いかけた。
「魚と鳥の寓話?」
「魚は汚れた水の中に棲んでいた。鳥は大空が住み処だっ
た。魚は毎日辛かった。鳥は魚が可哀想で仕方なかった。
でも、魚には羽がないから、鳥みたいには飛べない。だか
ら鳥は、自分が魚の所に行ってあげようと思った。水に飛
び込んだ鳥は、溺れて死んでしまった。」
ヤマトは顔を曇らせた。
「つまり、魚が貧しい者で、鳥が富める者っていうこと?」
「まあ、そういうことだ。」
「富める者が貧しくなると、死んでしまうっていうのかい
?」
「贅沢依存症という病気みたいなもんさ。いい暮らしに慣
れてしまって、それが出来なくなると、禁断症状を起こす
のさ。貧しい人たちと同じ様に暮らすのは無理だよ。病気
だから、仕方がない。」
腑に落ちない表情のヤマトを見て、ユウトは溜め息を突い
た。
「なあヤマト、君の信念は立派だと思うよ。でも‥‥現実
的じゃない。深刻になり過ぎだよ。もうちょっと気楽に考
えられないか?そのうち、自分の信念に押し潰されてしま
うよ。」
返す言葉が見つからず、ヤマトはうーんと唸って考え込ん
だ。
「そうかなあ‥‥」
「出来る範囲で人助けをすれば、それでいいんじゃないか
な。」
確かにユウトの意見にも一理ある、ヤマトはそんな気がし
てきた。ユウトに聞いてもらったことで、幾分気が軽くな
った様だった。やっぱり彼に話してよかった、ヤマトはそ
う思った。
「あ、そうそう、ヤヨイが君に会いたがってたぜ。」
ヤマトの気を紛らそうとして、ユウトは話題を変えた。
「ヤヨイちゃんが?」
「君が高校をやめてから、全然来てくれなくなったって、
寂しがってるよ。たまには顔を見せてやってくれよ。」
「彼女、いくつになったんだ?」
「十三歳、中学一年だ。体もだいぶ元気になって、ちゃん
と学校に通ってるよ。」
「へえ‥‥」
ヤマトはヤヨイの顔を、懐かしく頭に思い浮かべた。
二人は小一時間程、懐かしい話をあれこれした後、再会を
約束して別れた。






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