(4)


あれから何年かが過ぎ、ヤマトは工場の仕事にも徐々に慣
れていき、給料も少し増えて、以前程の生き辛さも感じな
くなっていた。ユウトに言われた通り、時々出来る範囲で、
人道支援団体への寄付もしていた。
クリスマスイブの夜、仕事を終えたヤマトは、きらびやか
な街の賑わいを、橋の上から眺めていた。
「ヤマトさん。」
誰かに後ろから声を掛けられ、振り返るとそこに、見覚え
のある少女が立っていた。
「ヤヨイちゃん?」
名前を呼ばれて、少女は嬉しそうに笑顔を見せた。
「わあ、久し振りね!」
「本当にヤヨイちゃんか?大きくなったなあ。」
ヤヨイは恥ずかしそうにはにかんだ。
「何年生になったの?」
「中学三年。来年から高校よ。」
「そうか‥‥どうしてここに?」
「友達と買い物をしに来て、これから帰るところよ。ヤマ
トさんは?」
「僕も仕事が終わって、帰るところだよ。職場の工場がこ
の近くなんだ。」
二人は、駅までの道を並んで歩いた。久し振りに会ったヤ
ヨイは、相変わらず色白ではあるが、以前より幾分健康そ
うに見えた。
「元気そうだね。見違えたよ。」
「そう?ヤマトさんは全然変わらないわね。‥‥でも、ち
ょっと痩せたかしら?お仕事大変なの?」
「もう大分慣れたよ。ヤヨイちゃんは?学校は楽しいかい?」
「うん、とっても。ヤマトさん、今でも絵は描いてるの?」
「いや、あまり時間がなくてね。」
「そう‥‥残念だわ。私、ヤマトさんに描いてもらった絵
をまだ持ってるのよ。憶えてる?」
「ああ。君の顔を描いたよね?まだ持ってたのか。」
「ええ。私の宝物よ。」
こんな他愛ない会話をしているうちに、二人は駅に着いた。
それぞれ反対方面の電車に乗るので、改札を入ると、別れ
の挨拶をした。
「会えてよかったよ。」
「私も。また会いたいわ。電話してもいい?」
「いいよ。」
「嬉しい。‥‥これってきっと、神様からのクリスマスプ
レゼントだわ。」
ヤヨイが乗る電車が先に来たので、ヤマトは電車が駅から
出て行くのを見送った。ヤヨイは扉の前に立って、ヤマト
が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
こんなに優しい気持ちになったのは、何年ぶりだろう?ヤ
マトの胸は、いつになくあたたかいもので満たされていた。






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