(7)


ヤマトの祖母の葬儀は、ヤマトとユウト、ヤヨイ、それに
ユウトとヤヨイの両親の五人で執り行われた。遺骨は、祖
父が眠っている墓に納められた。
納骨が終わると、ヤヨイが堰を切った様に号泣し出した。
まるで実の孫の様に、ヤマト以上に悲しんでいた。

翌日、ヤヨイは看病疲れからか、体調を崩して寝込んでし
まった。ユウトから知らせを受けたヤマトは、慌ててすぐ
さま飛んで行った。
「オーバーね、ちょっと疲れただけなのに。」
あまりのヤマトの狼狽ぶりに、ヤヨイは可笑しくなって無
邪気に笑った。大事はないと分かると、ヤマトは安心して、
へなへなとその場に座り込んでしまった。

それから一年余りが過ぎ、高校を卒業するとヤヨイは、看
護師の専門学校に進んだ。ヤマトの祖母の世話をしたこと
で、将来医療に関わる仕事をしたいという気持ちが芽生え
た様だった。
「君は兄さんに似て、立派な考えを持ってるね。僕なんか
何も考えてない。尊敬するよ。」
ヤマトは、自分を引き合いに出して彼女を称賛したが、ヤ
ヨイの考えは、少し違う様だった。
「ヤマトさんには、人にとって一番必要で、一番足りない
ものがあるわ。何だと思う?」
「さあ‥‥何だろう?」
「優しさよ。あなたは優しい人だわ。それってとても大切
で、簡単そうでとても難しいことだと思うの。私もあなた
みたいになりたい。だから自信を持って。あなたは素晴ら
しい人よ。」

ある日、二人は夜の街を歩いていて、何年か前に二人が再
会した橋の上までやって来た。そこから街を見渡しながら、
ヤヨイが空を指差して言った。
「見て、きれいなお月様。」
ヤマトははっとして、真顔でヤヨイを見つめた。
「どうしたの?」
ヤヨイは戸惑い気味に訊ねた。
「今、君が言ったのと同じことを、僕の母が言ってた。僕
が憶えてる唯一の、母の思い出なんだ。」
二人は不思議な気持ちで見つめ合った。ヤヨイの頬が、ほ
んの少し紅く染まった。






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