第三章

(1)


灰色のどんよりとした曇り空の下、ヤマトは単身、遠い異
国の地に来ていた。ここはX国の政府軍が統治する地域で
ある。彼がここに来てから、ひと月が過ぎようとしていた。

X国は、国土の東側を政府軍、西側を反政府軍が支配して
いた。ヤマトが働く施設は、元々小学校だった三階建ての
鉄筋コンクリートの建物で、政府軍側の比較的中心部に近
い、治安の安定した場所にあった。
建物の周りの敷地内には、仮説のプレハブやテントが多数
設けられ、そこに、戦闘地域に近い場所で家を失った人や、
怪我をした人等が搬送されて来て、住居や食事が提供され
ていた。
小学校の建物の内部は、ヤマトが想像していたよりもずっ
と設備が整っていて、怪我人や病人のためのベッドや、ト
イレやシャワーの他、飲食や娯楽のためのスペースもあっ
た。ヤマトはここで、救援物資の運搬や食事の提供、清掃
作業、時には怪我人の応急処置等、雑多な仕事を担ってい
た。
施設で働くスタッフは、概ね五〜六人で、様々な国や団体
から集められて、任期が終わると交代で新しいスタッフが、
入れ替わり立ち代わり派遣されて来ていた。また、軍から
は警備のための兵士も何人か配置されていた。
施設内では主に英語でコミュニケーションが取られていた。
スタッフは皆、気さくで人当たりのいい、親しみやすい人
ばかりで、ヤマトはすぐにその中に溶け込むことが出来た。
真面目で穏やかな性格のヤマトは、彼らの中でも特に好感
が持たれていた。
スタッフの中には、もっと戦闘地域に近い難民キャンプで
働いていた者もいて、彼によると、
「あそこに比べればここは、リゾートホテルみたいなもの
だよ」
ということだった。

プレハブやテントの避難所には、子どもたちも多かった。
ヤマトは時々、仕事の合間などに子どもたちと一緒に遊ぶ
こともあった。
スタッフたちは一日の仕事が終わると、近くの簡易ホテル
に宿泊していたが、ヤマトはあまりそこを利用せず、施設
内に寝泊まりした。時には避難民の好意で、子どもたちと
一緒にプレハブやテントで寝ることもあった。

仕事は決して楽ではなかったが、ヤマトは生まれて初めて
働き甲斐を感じていた。他のスタッフや子どもたちのお陰
で、孤独を感じることはなかった。
彼は、こここそ自分の居場所だと思った。






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