(2)


ある日、ヤマトが施設の休憩室で休んでいると、三人の政
府軍兵士が部屋に入って来た。彼らは警備兵とは別の兵士
だった。施設には時々、負傷や休養のために、戦闘地域か
ら一時後方に戻って来ている兵士もいて、彼らもその類い
らしかった。
兵士たちは、ヤマトから少し離れたテーブルに着くと、大
声で話し始めた。施設内にアルコール飲料は置いていない
のだが、自分たちで持ち込んだらしく、皆酔っていた。
彼らはヤマトの姿に気づくと、何やらひそひそと小声で話
し始め、一人の兵士が立ち上がって近づいて来た。この施
設を訪れる兵士たちは、ヤマトの姿を見かけると、しきり
に近寄り話し掛けて来た。外国の屈強な男達の中に入ると、
ヤマトはまるで子どもの様に見える。それを面白がって、
兵士たちはヤマトをからかうのだった。
ヤマトの方も、敢えて彼らと距離を置こうとはしなかった。
ヤマトは戦争を理解したかった。戦争の正体を知りたかっ
た。彼らと接触することは、その目的を果たす絶好の機会
だと考えたのだ。
近づいて来た兵士が、現地訛りのある英語で、ヤマトに話
しかけて来た。
「坊や、調子はどうだ?」
「こんにちは。とても元気ですよ。あなたは?」
「ああ、いい調子だ。ところでお前、あの男を知ってるか?
ほら、あそこに座ってる男だよ。」
ヤマトがその兵士の指差す方を見ると、遠くのテーブルに、
ぼさぼさの髪に無精髭を生やした色黒の男が、座ってコー
ヒーを飲んでいた。
「いえ、誰なんです?」
「あいつは死神だ。」
「死神?」
「ああ、本当の名は知らないが、みんなそう呼んでる。あ
の男、坊やと同じ国の生まれらしいぜ。」
ヤマトはもう一度、その男の方を見た。確かに容姿はこの
国の人間ではなく、ヤマトと同じ人種の様だった。
「なんでも女房と子どもを敵に殺されて、志願して兵士に
なったって話だ。取っつきにくいが、兵士としちゃあ優秀
だ。今まで何人もの敵を殺してる。それで敵からも味方か
らも死神って呼ばれてるんだ。」
兵士の男は、ヤマトのすぐ横に座って、耳元で囁く様に話
し続けた。
「あいつは人間じゃない。敵を殺す機械だ。あいつの頭の
中は、敵への復讐心しかないのさ。俺たちもあいつには近
寄らない様にしてるんだ。怒らせるとおっかねえからな。」
敵への復讐心しかない、という言葉がヤマトの気に留まっ
た。自分とはまったく正反対に思えたのだ。
「坊やもあいつみたいに、怒ると怖いのかい?」
「僕は怒りません。怒るという感情がないんです。」
それを聞いて、兵士は大笑いした。
「おい、聞いたか?こいつは怒るっていう感情がないらし
いぜ!」
彼が仲間たちに向かって大声で叫ぶと、彼らも面白がって
笑い出した。






前へ          戻る          次へ