(5)


それから何日かの間、ヤマトは死神を探し回った。彼と話
がしたかった。そしてようやく施設の食堂で、食事を終え
コーヒーを飲んでいる死神を見つけた。ヤマトは、意を決
して彼に近づいて行き、向かいの席に座った。
「こんにちは。」
ヤマトは英語ではなく、自国の言葉で挨拶した。死神は何
も答えず、ヤマトを一瞥しただけですぐに目を反らした。
「あなたの名は?」
ヤマトの問いかけにも死神は答えなかった。
それでもヤマトは質問を繰り返した。
「教えてくれませんか?何て言う名前なんですか?死神じ
ゃあないでしょう?」
「名前なんて必要ない。死神と呼びたけりゃあ、それでい
い。」
ようやく死神が、億劫そうに答えた。
「この間、僕のことを見てましたよね?何を考えていたん
ですか?」
死神はまた、口を閉ざした。ヤマトは構わず話し続けた。
「あなたの噂を色々聞きましたよ。奥さんと娘さんを亡く
されたそうですね?それで義勇兵になったとか。」
死神は、横を向いてヤマトを無視したが、席を立とうとは
しなかった。話を聞いてくれている、ヤマトはそう思った。
「余計なお世話かもしれないけど、僕の話を聞いてくださ
い。あなたは敵を憎んでいるみたいだけど、本当は苦しい
んじゃないですか?この前あなたの姿を見て、そう思った
んです。あなたは孤独だ。一人で苦しんでいる。本当はあ
なたは、怒りや憎しみから解放されたいんじゃないですか
?」
死神は、横目でヤマトを睨んだ。ヤマトは内心、怖くて逃
げ出したかったが、勇気を振り絞って話を続けた。
「怒らないで聞いてください。勝手なことを言う様だけど、
復讐は無益です。どんなに復讐してもきりがない。奥さん
と娘さんを失った悲しみが消えることはないと思います。
僕と一緒に国へ帰りませんか?ここに留まっている限り、
憎しみから逃れることは出来ないでしょう。苦しみも消え
ないと思います。一旦この国を離れて、内戦が治まったら
戻って来てはどうでしょう?」
ここまで話し終わるとヤマトは、死神が何か答えてくれる
のを待った。
「言いたいことはそれだけか?」
死神はしばらく黙っていたが、ヤマトの方を向き直ると、
低い声で話し始めた。
「それじゃあ今度はこっちが、少しばかり言わせてもらお
うか。」






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