(6)


「あんたは俺が苦しんでるって言ったが、とんだ思い違い
だ。俺は戦いを楽しんでる。喜んで敵を撃ち殺してる。何
故だか分かるか?それが正しいと確信してるからだ。確か
に俺は怒っている。敵を憎んでる。それは間違ったことじ
ゃないんだ。」
思いがけない死神の言葉に、ヤマトは困惑した。
「僕には解りません。僕には怒りや憎しみが理解出来ない
んです。そういう感情がないんです。」
「もし本当にそうなら、あんたは不良品だ。欠陥人間と言
わざるを得ない。いいか、よく聞け。人間は、怒りや憎し
みの感情があるから繁栄したんだ。自然の摂理だよ。同じ
種族同士で戦い争って、弱い遺伝子は淘汰されて、より強
い遺伝子、優秀な遺伝子だけが残って行くんだ。弱肉強食、
生存競争の原理ってやつだ。」
死神は、自分の考えに揺るぎない自信がある様に見えたが、
ヤマトも必死に食い下がろうとした。
「僕は‥‥そうは思いません。人間は他の生き物とは違い
ます。競争なんてしなくても、エゴを捨てて助け合えば、
共存できる筈です。」
それを聞いて、死神は思わず吹き出した。
「とんだお笑い草だ!そんなことを言ってたら、この世界
では生きて行けないぞ。この世界は、あんたが思っている
よりずっと残酷なものだ。愛だの平和だのというやつは、
何の役にも立たない。生存競争で勝ち残るのに、邪魔なだ
けだ。俺は家族を殺されて、そう気づいたんだ。目が覚め
たのさ。だから俺は、敵に感謝してるぐらいだ。俺は敵を
撃ち殺すことで、自然の摂理に従ってるんだ。俺も正しい
し、敵も正しいんだ。愛だの平和だのという奴は、自然の
摂理に反する不良品だ!早いところ、弾き出された方がい
い!繁栄の邪魔者だ!」
ヤマトは凍りついた。鬼気迫る死神の言葉に圧倒され、意
気消沈して、反論する気力を失ってしまった。死神は、不
敵な笑みを浮かべた。
「そんな顔するな。ちょっと言い過ぎたか?悪く思うなよ。
まあ長生きしたけりゃあ、せいぜいこれから勉強するんだ
な。今からでも遅くはない。考えを改めることだ、俺みた
いに。」
そう言うと、おもむろに立ち上がって、ヤマトの肩をぽん
と叩いた。
「俺の講義はこれで終わりだ。」

この時以降、ヤマトが死神の姿を見ることはなかった。恐
らく彼の望み通り、再び戦闘地域の最前線へ向かったのだ
ろう。
やがて半年間の任期を終え、ヤマトはX国を後に、帰国の
途に就いた。
まるで死神の呪いに取り憑かれた様に、深い絶望感を背負
って‥‥






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