第四章

(1)


ヤマトは人が変わってしまった。以前と変わらぬ、穏やか
な笑みを浮かべてはいるが、まるで別人の様だ‥‥十二月
の寒い夜、空港で彼を出迎えたヤヨイは、彼の顔を一目見
るなりそう思った。恐らく向こうで、何か重大な精神的打
撃を受けたに違いない‥‥勘の鋭いヤヨイは、すぐにそう
察した。
「お帰りなさい。」
ヤヨイは、努めて明るくヤマトを迎えた。
「ただいま。」
ヤマトも、久しぶりに彼女の顔を見て、幾分気持ちが和ら
いだ。
「少しやつれたかしら?大変だったんじゃないの?」
「うん、まあいろいろあったよ。」
「でも‥‥無事帰って来て、安心したわ。」
「ありがとう。君の方は元気だったかい?学校には行って
るの?」
「ええ。もうすぐ二年生よ。」
久しぶりということもあって、よそよそしい雰囲気だった
が、それでもヤヨイは嬉しかった。
(大丈夫、時が経てばきっとまた、元通りの彼に戻る。)
彼女はそうたかを括っていた。

その後、小さなレストランでユウトも合流し、三人でささ
やかな帰国のお祝いをした。
「迎えに行けなくて済まなかったな。」
「いや、いいんだ。仕事が忙しいんだろう?」
「ああ。ここのところ立て込んでいてね。」
ユウトは今、大学病院で研修医をしていた。
「元気そうで何よりだ。まずは乾杯しよう。君の帰還に。」
「ありがとう。」
それから三人は、お互いの近況を語り合った。ユウトはふ
と、ヤマトの表情の中に、何か翳りの様なものがあるのに
気づいた。楽しげに笑ってはいるが、会話の端々で突然、
ぞっとする様な深刻な目つきに変わる瞬間があった。
「おい、向こうで何かあったのか?」
「え?」
思いがけないことを聞かれて、ヤマトはぎくりとした。
「さっきから様子がおかしいぞ。何があったんだ?よけれ
ば話してくれないか?」
「うん‥‥」
ヤマトは少し迷っていたが、思いきって話し始めた。
「じつは‥‥」
ヤマトは死神という義勇兵に出会い、彼と議論したこと等
を、二人にこと細かく話した。
「そうだったのか‥‥」
恐れていたことが起きてしまった、ユウトは内心そう思っ
た。やはり繊細なヤマトには、この仕事は刺激が強過ぎた
のだ。
「彼は僕を、人間の不良品だと言った。やっぱりそうなの
かな‥‥」
ヤマトは独り言の様に呟いた。
「違うわ!あなたは素晴らしい人よ!私が一番よく知って
る!」
ヤヨイが必死になってそう訴えた。
「その通りだ。君のことならその男より、僕やヤヨイの方
がずっとよく解っている。君は不良品なんかじゃないよ。
あまり気にするな。」
ユウトもそう言ってヤマトを励ました。
「そうだな‥‥変なことを言って済まない。」
ヤマトは、二人を安心させる様に笑った。






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