(3)


ヤマトとヤヨイが結婚して、一年が過ぎようとしていた。
ヤマトは、あまり外へ出歩かなくなった。仕事が休みの日
は、部屋に籠って絵を描いて過ごした。その一方で、仕事
の時間を増やして、休日も働くことが多くなった。
「いっぱい稼いで、早く君に指輪を買わないとね。」
ヤヨイにはそう言って笑ったが、本心は仕事に埋没して、
余計なことを考える暇をなくしたかったのだった。
ヤヨイは学校に通いながら、家事もこなしていた。家では
常に明るく振る舞って、落ち込む夫を何とか元気づけよう
と努めた。

ある夜、ヤマトはテーブルに並んだ夕食を見て、ヤヨイに
言った。
「今日は随分豪華だね。何かあったの?」
ヤヨイは、少しびっくりした顔をしたが、すぐに笑って答
えた。
「忘れたの?今日は結婚記念日よ。」
ヤマトははっとして、顔を赤くした。
「そうか‥‥ごめん、忘れてた‥‥」
「いいのよ。さあ、食べましょう。」
気まずい雰囲気を吹き消そうとして、ヤヨイは笑って言っ
た。

真夜中、何かの物音でヤヨイが目を覚ますと、横で背中を
向けて寝ているヤマトが、体を震わせて泣いていた。
「どうしたの?」
ヤヨイは驚いて飛び起きた。
「済まない‥‥どうしてこんなになってしまったんだろう
?‥‥僕がこんなだから、君が可哀想で‥‥でも、どうし
たらいいのか分からないんだ‥‥どうしたら元の自分に戻
れるのか‥‥もう元には戻れないのかもしれない‥‥」
消え入りそうな声で、ヤマトはそう言った。ヤヨイはヤマ
トの体を起こして抱きしめた。
「心配しないで、私は大丈夫だから。あなたはきっと、元
のあなたに戻るわ。私が戻してあげる。どんなことをして
も、どんなに時間がかかっても。私は諦めないわ。だから、
私を信じて。」
二人は固く抱きしめ合った。そしてそのまま、お互いの愛
を確かめ合った。






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