(4)


翌朝、二人は清々しい気持ちで食卓に向かい合っていた。
これから徐々によくなっていく、何もかも元通りになって
いく、そんな予感がして、お互いの顔を見つめて微笑み合
った。
その時、ヤマトの電話が鳴った。ユウトからだった。
「今、テレビ見てるか?」
電話に出ると、ユウトが聞いて来た。
「いや。」
「点けてみなよ。臨時ニュースをやってる。」
言われるままに部屋のテレビを点けると、画面に映し出さ
れたのは、黒覆面を被り銃を構えた二人の兵士と、その間
で泥で汚れた衣服を纏い、手錠をはめられ跪いて立ってい
る男の姿だった。その男の顔を見て、ヤマトはあっと大き
な声を上げた。
「死神だ!」
ニュースで報じられていた名前に聞き覚えはなかったが、
ぼさぼさに伸びた髪と髭の間から覗いている顔は、紛れも
なく死神だった。死神は石の様に硬い表情で、正面を見据
えていた。
彼はX国での戦闘中に、反政府軍の組織に拘束され、彼の
故郷である我が国が、反政府軍から身代金を要求されてい
る、ということだった。
「やっぱり君が言ってた男か。もしかしてと思ったんだが
‥‥」
ヤマトは、ユウトの言うことも耳に入らない様子で、呆然
とテレビの画面を見ていた。
「ねえ‥‥大丈夫?」
心配になったヤヨイが、横から顔を覗き込んで声を掛けた。
「おい、大丈夫か?」
ユウトも電話の向こうから、ヤマトを気遣って言った。
「ああ‥‥国は要求に応じるかな?」
我に返り、落ち着きを取り戻そうとしてヤマトが尋ねると、
ユウトはひとつため息をついて答えた。
「判らない‥‥恐らく厳しいだろうな。でも、僕たちに
出来ることは何もないよ。」

その夜、ヤマトはどうしても眠ることが出来なかった。
(彼を助けなければ‥‥)
武力や政治的な駆け引きで、彼の命を救うことは出来るか
もしれない。だがそれでは、彼の魂は救われない。屈辱感
が彼の寿命を一層縮めてしまうかもしれない。敗北感で彼
の心は、完全に死んでしまうかもしれない。今の彼に一番
必要なのは、寄り添う心だ。ヤマトはそう直感した。
彼の言った通りに僕が不良品なら、彼もまた不良品だ。怒
りを持たない僕と、怒りしか持たない彼‥‥僕らは二つに
割れたコインの片割れなんだ。二人が合わさって初めて、
ひとつのコインになれるんだ。
救いに行かなければ、僕の片割れを。魂が死んでしまう前
に。
ヤマトの心は、一点へと向かって定まっていった。しかし
その一方で‥‥
横で寝ているヤヨイの顔を見ると、ヤマトの胸は張り裂け
そうになった。






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