(10)


疲れきって、呆然と座り込んでいたヤマトがふと気づくと、
いつの間にか見張りの若い兵士が戻って来ていて、こちら
を見ていた。
「おい、あの男の遺体を埋めて来てやったぞ。」
「えっ?」
ヤマトは驚いて立ち上がった。
「本当に?」
「ああ、仲間と山の中に棄てて来てから、こっそり一人で
戻って、土の中に埋めてやった。大仕事だったが、あのま
まにして万が一、敵に見つかっても困るからな。」
「ありがとう。」
思いがけないことに、ヤマトは喜んで礼を言ったが、若い
兵士はそれには答えず目を逸らした。
「あんたには同情してるよ。あの男は多くの俺たちの仲間
を殺したが、あんたは違う。あんたは敵とは思ってない。」
それを聞いて、ヤマトの頭にある考えが浮かんだ。ヤマト
は思いきってそれを言ってみた。
「もうひとつ、頼みたいことがあるんだけど。」
「頼みたいこと?」
「うん、実は‥‥ペンと紙を持って来て欲しいんだ。妻に
手紙を書きたいんだ。どうだろう、出来ないかな?」
すると若い兵士は、火がついた様に顔を真っ赤にして怒り
出した。
「ふざけるな!調子に乗りやがって!そんなこと出来るわ
けないだろ!ばれたら俺まで殺されちまう!第一手紙なん
て、どうやって届けるんだ?いい加減にしろ!」
そう捲し立てると、若い兵士は足早に出て行ってしまった。
最後の希望の糸が切れてしまった、ヤマトはそう思った。
(もう、出来ることは何もない‥‥)
力なくその場に横たわり、脱け殻になったヤマトは、後は
もう、運を天に任せるしかないと覚悟を決めて、静かに目
を閉じた。

この頃、X国の内戦は大きく動き出していた。政府軍と反
政府軍、それぞれの勢力を支援していた諸外国が、あまり
に長引き過ぎた戦いに疲弊し、支援の手を引き始めたのだ
った。それによって反政府軍は、徐々に勢力を失いつつあ
った。武器の数に勝る政府軍は攻勢を強め、反政府軍は次
第に追いつめられていった。
ある夜、眠りに就いたヤマトは、遠くに砲撃の音を聞きな
がら、子供の時に見た、隕石の空中爆発の夢を見ていた。
やがて、政府軍の爆撃機が、ヤマトのいる洞窟の上空にま
で飛来し、辺り一面を爆撃した。山岳地帯は火の海と化し、
洞窟はその中に呑み込まれていった。






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