(2)


翌朝、部屋のドアをノックする音でヤマトは目を覚ました。
ドアを開けると、昨日の職員の男が立っていた。
「働く気はあるかい?」
「えっ?」
「よければ難民キャンプで働かないか?大した稼ぎにはな
らないけど、少しの時間でも働いてくれたら助かるんだ。
何せ人が足りなくてね。」
ヤマトは喜んで引き受けた。早速その日から、彼と一緒に
難民キャンプに行って働き始めた。仕事は様々な雑用で、
以前の経験があるので、戸惑いは感じなかった。報酬は微
々たるものだったが、それでもヤマトには有り難かった。
ヤマトはその金で宿代を払い、食べる物を買い、護衛兼通
訳の兵士を雇うことが出来た。
仕事のない日は、雇った兵士を連れて周辺の町へ行き、死
神の情報を求めて住人に聞いて回った。護衛兼通訳の兵士
は、町に行く時にその都度雇った。難民キャンプの仕事は
不定期で、いつ町に出られるか分からなかったし、兵士も
いつ配置転換でいなくなるか分からなかったからだ。
ここの住人たちは、中心部付近の住人と違って皆用心深く、
あまり協力的ではなかった。家を訪ねても、扉を開けてく
れるのは稀で、返事さえしてくれないことの方が多かった。
「彼らにとっちゃあ、俺たち兵士はみんな敵なのさ。政府
軍だろうと反政府軍だろうとな。」
雇った兵士が、吐き捨てる様に言った。
ヤマトは、戦場の実態を目の当たりにして、その非情さに
圧倒され、衝撃を受けた。戦争とはこんなにも、人の心を
変えてしまうものなのか‥‥

ある町を訪れた時、瓦礫の散乱した町外れの空き地に、ミ
ニチュアの町の様に、幾つもの石を積み上げたものが立ち
並んでいるのを見つけた。
「あれは墓だ。積み上げられた石ひとつひとつの下に、死
んだこの町の住人が埋まってるんだ。」
と、兵士が教えてくれた。ヤマトは胸が傷んで、その墓場
を正視することが出来なかった。ここには悲しみが充満し
ている。積み上げられた石の下に眠る人たちの悲しみ‥‥
その人たちを想って、石を積み上げた人たちの悲しみ‥‥

戦争は、三種類の人間を生む。勝者と敗者と犠牲者だ。勝
者は全てを手に入れ、敗者は死んでこの世を去る。そして
犠牲者は、戦争が終わった後も生き続け、苦しみ続ける。
ヤマトは、戦争というものの正体が、ほんの少し見えて来
た様な気がした。






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