(3)


ヤマトがX国に来てから半年近くが経ったが、死神の行方
は、依然として分からないままだった。彼が敵に捕らえら
れた場所は特定出来たが、その周辺の町でどれだけ聞き込
んでも、情報は全く得られなかった。時々、ラジオでニュ
ースを聞いたが、人質解放の交渉は、全く進展していない
様だった。ヤマトはこの半年間で、すっかり疲れ果て、気
力を失いかけていた。
「少々危険だが‥‥」
そんなヤマトを気の毒に思ったのか、護衛兼通訳の兵士が
話し始めた。
「この辺の住人の中には、敵側の住人と通じていて、食料
や日用品の売買をしている者もいる。そういう奴を探して、
一緒に前線の向こう側に行ってみてはどうだろう?向こう
の住人なら、何か知ってるかもしれない。」
ヤマトは藁にもすがる思いで、その提案に飛びついた。
兵士は、何軒かの家を訪ね歩いた末、崩れかかった住居の
中から一人の男を連れて来た。
「この男が敵側の住人と通じているそうだ。彼と一緒に行
って交渉してもらおう。」
その男は英語を話すことが出来た。彼はヤマトにこう言っ
た。
「明るいうちは危険なので、夜になってから行こう。ただ
し、あんた一人で来い。兵士が一緒だと、目立って却って
危険だ。」
ヤマトは了承し、改めて出直すことにした。
「くれぐれも気をつけろよ。外国人は身代金目的で狙われ
やすい。特にあんたみたいな金持ちの国の人間はな。敵兵
に出くわしたらおしまいだ。」
報酬を受け取ると、兵士はヤマトにそう忠告した。

夜になり、ヤマトは単身、約束した男の所へやって来た。
二人で夜道を歩いて行くと、人家が消え、森が見えて来た。
「この森の中を通って敵側まで抜ける。」
手に持ったランプの灯りを頼りに、男は森の中へ入って行
き、ヤマトもその後ろを付いて行った。一時間ほど歩いた
所で、男は不意に立ち止まり、後ろを振り返った。
「危険なので、ここからは灯りを消して行く。」
ランプの灯が消えると、辺りは真っ暗になって何も見えな
くなったが、男は慣れた足取りで前へ進んだ。
暗闇の森の中を更に一時間歩くと、男はまた立ち止まった。
すると、その前方に人の気配がした。男がランプの灯を点
けると、目の前に三人の男が立っていた。銃を携えた、反
政府軍の兵士だった。男はヤマトの方を振り返ってこう言
った。
「彼らと取り引きしたんだ。あんたの何倍も報酬をくれる
んでね。悪く思わないでくれ。女房と子供たちを食わせる
ためだ。」






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