(4)


反政府軍に捕まったヤマトは、山の中の小さな小屋に監禁
された。しばらくすると、軍用車に乗せられて、別の小屋
に移された。その後も何日おきか、あるいは何週間おきか
毎に、幾つかの山小屋を転々と移動した。同行する兵士の
顔ぶれは、その度に違っていた。反政府軍は、幾つかの少
数民族で構成されていて、兵士の人種や民族も様々だった。
ヤマトは、場所を移動する度に尋問され、名前や年齢や国
籍等を聞かれた。そんなことが何ヵ月続いたろうか、ある
時、小屋を出て車で何時間か走ると、車を降りて、そこか
ら山道を歩いて移動した。
しばらく歩くと、岩山の斜面に洞窟があって、その前に数
人の兵士が立っていた。ヤマトを連れて来た兵士たちは、
その中のボスらしき男に挨拶をして帰って行った。
「一緒に来い。」
ボスらしき男は、聞き取りにくい英語でヤマトにそう言う
と、部下を引き連れて洞窟の中へ入って行った。洞窟の中
は広く、岩盤を削って通路と幾つかの部屋が作られていて、
所々に灯りも点いていた。
通路を奥まで進むと、入口が鉄格子になっている牢に行き
着いた。
「中に入れ。」
兵士のボスは、ヤマトにそう言った。中を見ると、奥の暗
がりの中に、横たわっている人影が見えた。
ヤマトは牢に入れられると、その人影に歩み寄り顔を近づ
けて見た。死神だった。痩せこけた体に汚れたぼろ切れを
纏い、伸び放題の髪と髭の中から、目と鼻だけを覗かせて
いたが、それは紛れもなくあの死神だった。
「しっかり!」
ヤマトは、屈み込んで変わり果てた死神の上体を抱き起こ
し、膝の上に乗せた。そして顔を覗き込むと、愕然とした。
その目は、狂人の目だった。
半開きの虚ろな目は、ヤマトを見ている様で見ていなかっ
た。その焦点はヤマトを突き抜けて、どこか宙をさまよっ
ていた。
遅かった!彼の心は死んでしまった!
「そいつはもう壊れちまった。我々では面倒見きれない。
お前がそいつの世話をして、死なない様にしろ。大事な金
づるだからな。」
兵士のボスが、ヤマトに命じた。
「そのために僕を‥‥ここに連れて来たのか‥‥彼に‥‥
彼に一体何をしたんだ?」
ヤマトは、悲しみで息が出来なかった。人間はこんなにも、
非道になれるものなのか?人間とは一体何なのだろうか?
「そいつは我々に非協力的だった。隙あらば噛み殺そうと
する、凶暴な獣みたいなものだ。だからこっちも、少々扱
いが手荒くなったって訳だ。お前も気をつけろ。そいつみ
たいにならない様にな。」
酷い状況は覚悟していた。だが、これ程までとは!
ヤマトの目から、涙が止めどなくこぼれ落ちて、無反応の
死神の顔を濡らした。






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