(6)


ある夜、ヤマトは眠っている死神の傍らに座って、瞑想す
る様に目を閉じてじっとしていた。
「何を考えてるんだ?」
珍しく見張りの若い兵士が、ヤマトに声を掛けて来た。
「彼のために祈ってるんだ。君たちも、お祈りはするだろ
う?」
「俺たちの神と、お前たちの神は違う。」
「僕は信じている宗教はないよ。でもお祈りはする。神様
は宗教に関わらず、誰の声も聞いてくれる筈だから。」
ヤマトはこの若い兵士が、自分に興味を持ち始めたのかも
しれないと思った。
「君は大分若そうに見えるけど、何歳?」
兵士は答えなかった。ヤマトは諦めずに話しかけた。
「家族はいるの?」
「両親と、兄が一人。」
兵士がぼそっと答えた。
「みんな、政府軍に殺された。」
「そうか‥‥それで兵士になったのか。」
「長い間奴らは、俺たち少数民族をさんざん差別し弾圧し
て来た。許せないことだ。だから俺は銃を取った。」
兵士は、訴えかける様に言った。
「彼もそうだ。奥さんと子どもを君たちに殺されたんだ。
それでも君は、自分たちが正しいと言えるのか?」
「正義のためだ、仕方がない。」
「人を殺すのが正義なのか?僕はそうは思わない。許すの
が正義だ。」
「馬鹿言え!家族を殺されて、仲間を殺されて、それでも
許せって言うのか?」
「もしも愛する人を殺した敵を許すことが出来たら‥‥と
ても難しいことだけど‥‥その時初めて、この世界から戦
争はなくなるんじゃないか?」
ヤマトは彼にではなく、自分に言い聞かせる様に話し続け
た。
「自分の夢や理想や、命までも捨てて、人のために尽くせ
たら‥‥そうすることに、喜びを感じられたら‥‥」
ヤマトはもうそれ以上、言葉が出なかった。それ以上、考
えをまとめることが出来なかった。じっと聞いていた若い
兵士は、ヤマトが黙り込んでしまうと、こう言った。
「無駄話は終わりだ。もう寝ろ。見張りが俺じゃなかった
ら、今ごろお前は撃ち殺されてるところだ。」
ヤマトは死神の傍らに横たわり、その寝顔を眺めた。せめ
て彼の見る夢が、幸せなものでありますように‥‥そう祈
りながら目を閉じた。






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